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連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.14 ―沼津から小田原までの旅― 横山 実
1.4月7日(金)―沼津からの出発 シーボルトは、ビュルガーとともに、箱根に行く準備のために、4時頃に出立の準備にとりかかっています。夜明けとともに宿を出ましたが、間もなく朝日が昇ってきました。三島村の近くで「私は、意を決してビュルガー・・とともに乗物をおり、必要な器具を携えて急いで先行した」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)94頁。以下、この本は、『日記』と略記します)のです。三島村では、大明神という神社を見ています。 図14-1.東海道... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(14)「海のミルク・カキ」
気仙沼市唐桑町地区の穏やかな湾内に並ぶカキの養殖筏 食欲の秋ー。日本は、海に囲まれ、緑の山野が広がる豊かな自然に恵まれている。しかも四季があり、旬の味覚を楽しむことができる。 気仙沼でも秋は、美味しい物の列挙に暇がない。まずは脂の乗った戻りガツオ。そしてサンマ。最近は暖流の勢力が強いため漁場も遠く、水揚げはかつてにくらべれれば芳しくないサンマ。しかも小ぶりなものが主体で「今は昔」的な存在なのが悲しい。真打はカキ。プリップリのカキは冬を越して来春まで、その美味を堪能できる三... -
連載
【連載】写真短歌(11)・・川喜田 晶子
往く雲のほつれて空となるごとく わが身の端の何処(どこ)からか君 川喜田晶子 形あるものがその形を喪うさまを見守るのは、とても心細いものですが、同時に、その心細さを心強さに変換し、執着を超えさせようとする、なにものかの意思に背中を押されているような気もいたします。いつの間にか空となる雲の在りように見とれながら、〈呼吸〉を整えています。 -
芸術
一枚の写真「シルエットの世界」・・太宰 宏恵
1日の後半に美しい夕焼けに出会えた日は、 ご褒美のようで嬉しくなります。 そんな日に限って、 携帯は持っていても、 カメラを持っていないことが多く、 「撮りたかった。」と思えば思うほど、 夕焼けは鮮やかに美しく変化していきます。 今回の写真を撮影した日は、 1日中曇りでした。 ところが、この場所に到着すると、 うっすらと太陽の光が射してきて、 淡く優しい色調の夕焼けとなりました。 空の中にだけ色彩が残り、 反対に今までさまざまな色を見せていた辺りは、 それを失ってシルエットとなる短い時... -
音楽
合唱のためのオペレッタ「シンデレラ」見角 悠代さん出演!
本格的なオペラを楽しめる上に、ちょっと笑える楽しいステージです。見角さんの継母が見どころ! 実際に舞台を見て楽しんだ編集長推薦 12月14日(土) 14:00光ケ丘 IMAホール前売り券 ¥2,500 /当日券 ¥3,000 小学生以下無料全席自由 -
音楽
ハイドンコレギウム第29回演奏会・見角 悠代さん出演
見角 悠代さんの、コロラトゥーラ・ソプラノ!超絶技巧とスーパーハイトーンは感動ものです! 実際に何度も体験した編集長推薦 2024年11月30日(土)13:30練馬文化センター 小ホールチケット全席自由 ¥1,000 -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.13―蒲原から沼津までの旅―横山 実
1.4月5日(水)―蒲原での滞在 図13-1.東海道五十三對 蒲原乃駅 保永堂版の広重の「東海道五拾三次之内」シリーズが、大ヒットしたので、版元は競って趣向を凝らした東海道五十三次物を出版するようになりました。歌川国貞(後の三代豊国)が画いた「東海道五十三次之内(通称・美人東海道)」では、東海道の宿の風景と美人がとりあわせて画かれました。また、役者絵を見立てた「見立役者 東海道五十三對之内」も出版されています。そのような流れの中で、天保15(1844)年から弘化4(1847)年にかけで出版... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(13)室根神社と港まち・気仙沼
気仙沼湾内の漁港から室根山を遠望する。天気はまさに「雲居」だ。 「遠くは雲居(くもい)の室根山(むろねさん)」。 公立高校が長く男女別学だった宮城県。女子の鼎が浦高と2005年に合併するまでの旧気仙沼高は我が母校。冒頭に記したのは、当時の校歌の歌い出し部分だ。当地方の最高峰、海抜895mの室根山が、雲をまといそびえるさまを歌っている。しかし室根山は、岩手県一関市室根町(旧岩手県室根村)に位置する。宮城の県立高の校歌の冒頭に、他県の山が歌われていた。しかし、そのことへの異論は耳... -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.12―府中(現在の静岡)から蒲原までの旅―横山 実
1.4月4日(火)―府中(静岡)からの出発 シーボルトは、激しい雨の中、府中を出立しましたが、まもなく数軒の小さな店に気付いています。「家々には十二羽あるいはもっと多くのウズラを入れた小さい鳥籠が掛っているのが、よく目についた。この鳥は、ここから余所の地方に広く売られていて、啼き声の良し悪しによって小判一枚ないし二枚の値段がする」((シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)87―88頁。以下、この本は、『日記』と略記します)のです。シーボルトは、... -
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【連載】写真短歌(10)・・川喜田 晶子
「ただいま」と「はじめまして」の等しさをくちうつされて秋は来にけり川喜田 晶子 萩の枝先に舞い降りた蝶は、「ただいま」と言っているのでしょうか。それとも「はじめまして」と言っているのでしょうか。萩は去年の萩ではなく、蝶も去年の蝶ではないはずですが、そこには、不思議な約束の匂いがして、間違えずにこの枝に舞い降りたのだ、という確かな気配が漂っています。絶対的な懐かしさと新鮮さ。その融合の相を見誤らないことこそが、生きる上でなにごとかなのだとおもわれます。「おかえり」。そして「は... -
芸術
一枚の写真「金木犀の終わりと14ヶ所」・・太宰 宏恵
金木犀の香が漂ってくると、秋の訪れを感じます。 涼しい初秋の空気に、この金木犀がよく似合うと思い、撮影を楽しみにしていました。数日、カメラを触ることができない日が続き、やっと金木犀を写真に収めようとすると、枝にはもう、葉だけが残り、鮮やかなオレンジ色の花々は、ほとんど落ちていたのです。 残った花と枝葉の様子を上手く撮影はできなかったものの、辺りに落ちた小さな花たちがとても可愛らしく、地面の上で今もなお、嬉しそうに咲いておりました。 香をかすかに感じながらそれらを撮影し、家に戻... -
音楽
童謡唱歌をもっと楽しく 10月19日(土)・伊藤康英、見角悠代
画像は東大和市ハミングホールのサイトから援用しています。 伊藤康英の童謡唱歌をもっと楽しく5 今年もやります! お馴染み、見角悠代+伊藤康英のコラボレーション。 開催日2024年10月19日(土)開場13:30開演14:00会場東大和市民会館ハミングホール小ホール料金全席自由一般1,000円 友の会800円 詳細、お申込みは「東大和市 ハミングホールのサイトをご覧ください。 -
音楽
見角 悠代(みかど はるよ)・音楽家への軌跡(5)
第5回 大学院での2年間は飛ぶように過ぎました。かつては助演だったオペラにも、キャストとして出演させて頂けるようになり、時折思った通りの声が出せるようになったような気がしたり、友達を相手に宇宙人みたいな会話もできるようになっていたかもしれません。 ある時、「コロラトゥーラソプラノ」というキーワドであれこれ探しているうちに、その代表格である「ナクソス島のアリアドネ」というオペラの『ツェルビネッタ』という役が歌う「偉大なる女王様」というアリアに出会いました。それをきっかけにリヒャ... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(12)気仙沼ホルモン
*写真は、ホルモンを焼きつつ、ビールを飲む至福の瞬間。撮影場所は「お福」店内。 俗に言う「ご当地・B級グルメ」。 気仙沼では、脂の乗った戻りガツオ、塩焼きサンマ、全ての味覚を堪能できるホヤ、秋以降に旨みを増すカキ、メカジキ…などなどの豊富な魚介類、さらには隠れた名産であるマツタケ、きれいな水が育む酒米から造られる地酒、あっ!忘れてはいけないフカヒレなどなど枚挙に暇がないA級グルメが盛りだくさん。 そんな大谷翔平選手クラスの名グルメに対して、気仙沼人にとって愛してやまない肉料... -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.11―日坂から府中(現在の静岡)までの旅―横山 実
1.4月2日(日)―日坂からの出発 日坂宿は、比較的小さい宿場で、天保14(1843)年の記録によると、本陣1軒、脇本陣1軒、旅籠屋33軒等、家数168軒で、住民数は750人でした。大田南畝(1749年-1823年)の「改元紀行」によると、ここではわらび餅が売られていました。また、峠越えをしてきた旅人の足の痛みを治癒する足豆散・足癒散等も売っていました。 シーボルトは、宿を出て山地を通り、東海道の三大難所(峠)の一つとされる小夜の中山へと向かいました。彼は、小夜の中山には「鳴らすと願をかけた人に銭... -
芸術
一枚の写真「空の景色に」・・太宰 宏恵
最近の空はとても美しく、 その表情は刻一刻と変わり、 ずっと眺めていても飽きない程です。 10年前の日本の空は、こんなに高く、 光が澄んで、ドラマチックだったでしょうか? ほぼ360度、空が見渡せる場所から、 5分毎に飛行機が下降してくるのが見えました。 光と雲だけの空よりも、 飛行機の登場により、 ぐっとその景色に引き込まれ、 慌ててシャッターを切ります。 空には毎日多くの人が居るのだと思うと、 不思議な気持ちに包まれ、 飛行機が見えなくなるまで、 その景色をしばらく見つめていました。 -
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【連載】写真短歌(9)・・川喜田 晶子
君にだけ軌跡の見える火矢ひとつ つがへて秋の芯を射るなり 川喜田 晶子 その人にしか見えない世界を歌う歌。その人にしか見えない世界をその人にしか描けないように描く作品。それらが〈個〉の殻を打ち破って他者に届くのは、思えばとても不思議なことです。この人は、自分のために歌ってくれているのではないか。自分のために描いてくれているのではないか。この人はなぜ、自分の心の扉をこんなにもやすやすと開けてしまうのだろう。少し青春の匂いのする、そのような出逢いの甘さも苦さも掬い上げつつ、孤独... -
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【連載】掌の物語(15)たくましいトンボ・樹 亜希
会う人みんなが言う。「もう、暑いのは飽きた」 京都では、年々夏の期間が長くなり、冬になればまた、底冷えしてたいそう冷える。なのに、体温を越えて、四十度近い気温が何十日も連続すると、からだから精気が汗とともに、流されて行く気がする。 私がまだ、学生で若かった頃は祇園祭が楽しみで、大文字もそこそこ嬉しく思った。本当は宗教行事で故人がお盆の間におもどりになり、また、彼岸の向こうへお戻りになる。それが大文字の送り火なのだ。 「今年は一緒に行けるよね」「いや、まだ、だめだ。誰が見て... -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.10―吉田(現在の豊橋)から日坂までの旅―横山 実
1、3月31日(日)―吉田からの出発 シーボルトは、3月30日の夜に吉田宿に到着したので、吉田をほとんど見ていません。 図10-1.東海道五十三駅道中記細見双六で描かれた吉田 広重が画いた東海道五十三駅道中記細見双六(以下においては、「双六」と略称します)での吉田の絵では、豊川に架かる豊川橋の向こう側に城が描かれています。吉田城は、天正18(1590)年に豊臣秀吉の命令で家康が関東に転封された後、池田照政(輝政)が城主となっています。彼は、城の拡張や城下町の整備を行いましたので、吉田城は... -
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【連載】掌の物語(14)居座る者と去る者 ・樹 亜希
私はことさら夏の暑さに弱い。 外気温が三十五度を越える京都の夏には、もうどうすることもできない。手も足も出ないどころか、私は鼻先も出すことはできない。しかし、やんごとなき事情ということは、往々にしてある。困ったものだ。通院だけは欠席、キャンセルは不可避。 タクシーに乗って出かける罪悪感から、逃れることはできない。 夜半になれば、涼しいのではないだろうかと、試しに自転車で夜の七時に出てみた。しかし、それが間違いであることに気が付くのは安易である。 吹き出す汗。 熱せられた... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(11)気仙沼とフェンシング
凱旋パレードに臨むロンドン五輪フェンシング日本代表メンバーら。左から2番目に当時の千田選手、1人おいて菅原選手=2012年8月12日、気仙沼市田中前 佐藤紀生撮影 2024年、フランス開催のパリオリンピック。今回も日本人選手はフェアプレーに徹し、懸命な戦いを繰り広げた。その中には、金2個を含む5個のメダルを獲得したフェンシング日本代表の躍進も含まれる。しかも男子個人エペ、同団体フルーレでは共に初の金メダル。男子団体エペで銀メダル、さらに女子はフルーレ、サーブルの団体で初の銅メダル獲得と... -
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【連載】写真短歌(8)・・川喜田 晶子
天地(あめつち)にはじめましてを言ふ前の儀式のごとく日々蕾みをり川喜田晶子 今まさに開こうという桔梗の蕾の中には、どれほどの宝物が詰まっていることでしょう。はち切れそうなそのふくらみを見るたびに、目が開く前の乳児の世界風景を想い描いてしまいます。大人になってゆけば切り棄てなければならない幼児性ではなく、大人になってゆくためにこそ必要な、あらん限りの幼児性のきらめきと、おそらくは数々の前世の記憶が適切に濾過されてできた雫もまた満ち満ちて。そのような記憶をたぐり寄せながら、今日... -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.9―桑名から吉田(現在の豊橋)までの旅―横山 実
1.3月28日(火)―桑名からの午後の出発 シーボルトは、11時頃に桑名の城外の町に到着して、「鐘の鋳造や、その他の鉄製品を見物」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)72頁。以下、この本は、『日記』と略記します)しています。徳川四天王の一人であった本多忠勝は、慶長6(1601)年に桑名の初代藩主になり、桑名の町を改造するために、大胆な町割りを行いました。その時、鋳物師を招き入れたので、桑名では鋳物業が勃興したのです。 その後、シーポルトは、若い... -
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【連載】掌の物語(13)それは無理なことで… ・樹 亜希
AIで作成 俺はこの夏に絶対、髪を染めると決めていた。 校則では、極端な髪色に染める、極端な刈り上げ、もしくはツーブロックは禁止されている。たかが髪の毛の色など、どうでもいいことなのだ。それを言うなら、アメリカ人の父親を持つ、ヘンゼルと、ケイトの双子なんて金髪じゃねーか。 それはよくて、なんで日本人はだめなのか。 偏差値が高くて、このままならば東大も京大も合格できるのではないだろうかという、成績を取っている。さほど、ガリ勉でもないが、一度読んだら理解できてしまうので努力をす... -
芸術
一枚の写真「夏の記憶」・・太宰 宏恵
セミの声が聴こえてくると、子供の頃に、初めてセミの「脱け殻」を見つけた時の驚きを思い出します。 独特の形と素材感、孵化の後、残されていくきれいな殻を不思議な気持ちで見つめていました。 セミの命は一週間程と言われていますが、それに反して脱け殻は、朽ちることなく、生きていた証のように長い時間、地上に残されていきます。 魂がたとえ抜けてしまっても美しいもの。 完璧な自然の造形への憧れは、この頃に私の中に生まれたのかもしれません。 -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.8 ―石部から桑名までの旅―横山 実
1.3月26日(日)―ひと休みした石部からの出発 シーボルトは、石部の宿で少し休んだのち、「横田村の付近でアラ川・・を渡った。・・この川岸の村の手前には、金毘羅を祭って建てた巨大な灯明台で、石灯籠というもの」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)68頁。以下、この本は、『日記』と略記します)がありました。 琵琶湖に注ぐ野洲川の源流の一つである横田川の渡しは、東海道の交通量が増えたので、夜間も運行されるようになりました。そこで、文政5(1822)... -
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【連載】掌の物語(12) 幻夢・樹 亜希
私の前を見慣れた京阪バスが通り過ぎて、ピタリと停止した。まるで何か線でもひかれているかのように。大きな幹線道路、そして買い物客や仕事帰りの人がまばらに、そして足早に通りすぎるけれども、私はまるで迷子のように、思い出を探して歩いていた。正確には、夕方の散歩だった。バス停の横には紫と水色のあじさいがたくさん咲いていた。 私の横に紺色のスーツ姿の男性が飛んできた。「おめでとうございます」「へ?」「当銀行の新しいクジに見事当選されました」「何のこと?」「あ、ご存じありませんか?... -
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【連載】写真短歌(7)・・川喜田 晶子
素足にてわが魂の底の底 降り立つ君の夏は光れり川喜田晶子 祭りの折には舞楽などが奉納される、神社の舞殿。ふだんは、細い縄が張りめぐらされ、紙垂(しで)が風に揺れています。古びた木の床を眺めておりますと、異界から降りて来た神というもののその足裏が、まさに床に触れる瞬間の心持ちを想像せずにはいられません。聖と俗の鮮やかでやわらかな出会いの感触が、記憶の底の底からこみ上げてくるようです。 -
芸術
一枚の写真 「蓮に思う」・・太宰 宏恵
蒸し暑くなるこの時期、私は、美麗な蓮の花と、水辺で大きく風にゆれる葉に出会うと救われます。 決して気温は変わりませんが、眺めていると、緑と桃色や紫、黄色のグラデーションが、心を涼やかにしてくれるように感じるからです。 そうとはいえ、高温注意報が発令される中、止まらない汗と戦いながらの撮影は、蓮の花にくすくすと、笑われているように思いました。 暑い夏は、やっぱり室内冷房が一番ですね。 -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.7 ―京都から石部までの旅―横山 実―
1.3月25日(土)―京都からの出発 シーボルトは、「12時に険悪な天候をついて京都を発ち、四条を渡」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)64頁。以下、この本は、『日記』と略記します)ったのです。 図7-1.東海道五拾三次之内 京師 三条大橋 歌川広重は、保永堂版の「東海道五拾三次之内」シリーズで、江戸から順番に東海道の55の宿場を画きました。その終点は、京師(「京師」は皇帝の都を意味しますので、日本では「京都」がそれに該当したのです)の三条大... -
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【連載】掌の物語(11) ヒーローでもなくラスボスでもない・樹 亜希
さりとて、こう、見苦しい人間の姿にはうんざりする。 デスノートの悪魔みたいな感じであれば、納得するのだろうか。私が現れると、ほとんどの人間は呆れかえり、馬鹿にして、見下す。 しかし、どんな金持ちでも、ゲス野郎も、聖人君子ぶったやつも、ただの人間であり煩悩の塊。「今から死にます」の一言を私が言うと、ぽかーんとした顔をしたあと数秒後に、笑い出したり、罵ったり、どうしてなんだとつかみかかり、まあ、大変なことになる。 私の見た目に問題があるのだろうか。 かわいい豆柴、もしくは最近... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑩ 夏の旬・カツオとホヤ
気仙沼の夏の食卓の定番、カツオの刺し身とホヤ酢 気仙沼港を代表する魚を一つ挙げるとするならば、それは何と言ってもカツオになる。カツオと言うと、高知県や鹿児島県をイメージする人が多いと思う。カツオのたたき、カツオ節など代表的な食文化を持ち、それは全国区で浸透している。 しかし生鮮カツオの水揚げ日本一となると、それは気仙沼港になる。昨年で27年連続となり、今年も「戻りガツオ」シーズンとなる秋を待たずしてライバルの千葉県勝浦港に肉薄。追い越すのはもはや確実な状況だ。 カツオは黒... -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.6 ―大阪から京都までの旅―横山 実―
1.3月17日(金)―大阪からの出発 8時頃に、難波橋(現在の地下鉄「北浜駅」の近くの通称ライオン橋)近くの長崎屋を出発して、1時間ほど北に向かって町の中を進んでいます。そこで「ちょうど刑場に引かれてゆく犯罪人に出会」っています。(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)58頁。以下、この本は、『日記』と略記します)大坂には、千日刑場、鳶田(飛田)刑場、野江刑場、三軒家刑場がありました。野江刑場は、高麗橋から約一里程の東成郡野江村の京街道に面した... -
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【連載】掌の物語⑩ 旅のおわり・樹 亜希
私は誰もいない、一人だけの空間に座って窓の外をみていた。一緒にいたはずの家族はバラバラになってしまい、静かな木の見えるホテルの部屋に座っている。 お金だけは不自由しないだけ、あった。 それは夫にかけてあった生命保険と、会社からの退職金代わりの株式や、自宅を処分したものだった。娘は就職して東京へ転勤となり、そこで知り合った男性と事実婚をした。夫に似て、ドライな性格で、一人娘であることから、入籍はせずに清水の苗字で仕事をしたいことと、子供は持たないという選択を結婚する前から... -
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【連載】写真短歌(6)・・川喜田 晶子
うつし世をはみ出してゐるたましひよ いざまろびゆけ早苗田(さなへだ)の上 川喜田晶子 この現世においては、どうも居心地が悪い魂の持ち主。ともすれば魂の方が、現世の外へ外へとはみ出していってしまう。ところが、そういう人こそ、その現世への激しい憧憬・愛着を抱いていたりするのですから、話は単純ではありません。あどけない表情の稲の赤ちゃんたちがやさしく整列する早苗田は、胸が痛くなるような青を湛えて澄んでいます。日本人の原風景として、〈日常〉の温かな象徴でありながら、かくも青々と澄ん... -
芸術
一枚の写真 「宝物」・・太宰 宏恵
私の中での紫陽花は、背の高い木々や他の植物の影の中で咲いているイメージが有ります。時々風に揺られ、丸い紫陽花にポッと、強い光が落ちてくると、辺り一体が大切にしている宝物を、ほんの一瞬だけ見せてくれているような気持ちになるのです。少しの間、そんな場面に触れ、私の中にも大きな花が咲いたように、心が満たされていきました。まだまだ咲き始めの紫陽花。今年はどんな色や形のものに出会えるのか、楽しみでなりません。 -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.5 ―室から大阪までの旅―横山 実―
1.3月9日(木)―室からの出発 朝、室の宿を発ち、「すぐうしろにある険しい山を越え、われわれは、駕籠にとって難儀な谷へくだる道を運ばれて行った」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)42頁。以下、この本は、『日記』と略記します)のです。山の麓では、「人力でかちとった耕地が拓かれていたが、その綿密さは、どんなにほめてもほめたりない位である。細い床は、畝と畝との間を深い溝で分け、そこにコムギ・ナタネ・ハトマメ・シロエンドウ・カラシが、そして... -
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【産地リポート】①まるせい果樹園(福島県福島市) 横山 浩一(産地ダイレクト)
「まるせい果樹園」さんは、いろいろな種類の果物を育てるだけでなく、直売所や果物狩り、果樹園の中にカフェまで展開していて、地元の人にも「まるせいさんはいろんなことに挑戦している」と言われています。 そのまるせい果樹園の佐藤さんが、また新しいことに挑戦しています。山形県の「さかたの塩」とコラボした「果塩(かしお)」はこだわりぬいた塩に、これまた果物の風味を残すことにこだわり、研究を重ねた末にやっと完成した果物の風味豊かな他に類を見ない果物塩です。 果塩のことを話す佐藤さんは... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑨・ツツジに包まれる徳仙丈山
「つつじ街道」手前、満開のツツジを歩く 50万本ものツツジが自生する気仙沼市の徳仙丈(とくせんじょう)山。5月中旬から下旬というわずかな期間ではあるが、全山が真っ赤に彩られる。その鮮やかさに加え、天気のいい日はそこかしこからツツジ越しに気仙沼湾を遠望できる。その景観もまた乙なものがある。 リアス海岸ゆえに、海と山は近い。徳仙丈山の標高は711m。7合目にある山道入り口(標高511m)まで車で行ける。内湾で潮風を浴びた後、30分もかからず森林浴ができる山懐深い場所へと移動できる。気仙沼... -
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【連載】掌の物語⑨ いい季節なのに・樹 亜希
私は仕事の帰りに大型マーケットの二階にある、モスバーガーで、野菜が多めのバーガーにかぶりついていた。トマトが唇の端から出てきそうになり、慌てて紙のナプキンで押さえる。 目の下には大きな道路故に、交通量が絶えることはない。 光、ハロゲンの白色とテールランプの赤色が夜の終わりがないことを示しているようだった。 私の住んでいた滋賀県のある場所では、この時間なら最終バスが終わり、自家用車が田んぼや畑の間を数台走る程度のことだった。おまけにバーガー店ということで、外国人の客が多く... -
芸術
Fashionable 湖龍斎 多彩な浮世絵展 −横山實コレクションより 6月25日(火)〜30日(日)
長唄と謡の空間に置いて 磯田湖龍斎展@下北沢 入場無料会 期:6月25日(火)〜30日(日)11時〜19時 ※最終日は17時閉場会 場:武蔵屋画廊 世田谷区北沢2-32-8 その他の詳細、お問合せ先は下のPDFをご覧ください。 20240625ダウンロード -
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【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.4 ―下関から室までの旅―横山 実
1.3月2日(木)―下関港からの出帆 風待ちしていた船は、8時頃に順風を受けて出帆しました。「潮流に助けられてファン・デル・カペレン海峡(シーボルトが名付けた海峡名ですが、現在は「下関海峡」と呼ばれています)を、非常な速力で通過」(シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)33頁。以下、この本は、『日記』と略記します)しました。 午後には、四国の陸地が見えてきました。「順風を受けて帆走しつづけたが、逆風に変わり、夜十時ごろ家室島と屋代島<普通は... -
音楽
創作合唱オペレッタ「シンデレラ」合唱団員 募集! 見角悠代さんと歌おう!
見角 悠代さんの指導あり! 12月には同じ舞台で歌いましょう! 本作は合唱団の為に作曲された創作オペレッタです。2023年11月には三日月混声合唱団15周年記念コンサート(茨城県牛久市)で上演され、合唱とソリスト,アンサンブル、ダンサーやファンファーレ隊が加わりテンポよく展開するステージで好評を得ました。今回は新たにオーケストラ版に挑戦します。はやみや合唱団では、この公演にあたり応募参加の皆さんをお迎えして「シンデレラ合唱団」を立ち上げます。お子様から大人まで楽しめるステージを共に作り上... -
音楽
吹奏楽指導研究講座(6月2日・浜松市)に見角悠代さんがゲスト出演します。
令和6年度 浜松市アクトシティ音楽院 コミュニティーコース 吹奏楽セミナー 吹奏楽指導研究講座 入場料 無料 (要申込)2024年6月2日(日) 開講:13:30(開場:13:00) 終了:15:30(予定) 詳細、お申込み先は下のPDFをご覧ください。 吹奏楽指導研究講座チラシダウンロード -
音楽
見角 悠代(みかど はるよ)・音楽家への軌跡(4)
第4回 あれよあれよと4年は過ぎました。一般大学では卒業論文を書くところですが、音大では卒業演奏をします。4年間のレッスンの集大成です。同級生たちは有名なオペラの独唱を軸に、同作曲家による歌曲や、同時代に関係や影響のあった作品を取り上げていました。4年追いかけてもやはりそんな知識が及ばなかった私は、「はる」を歌うことにしました。私の名前が「はるよ」だから「はる」の歌!ダジャレみたいなことでしたが、キーワドひとつで自由にあれこれを調べまくったおかげで、結果的にはよい選曲ができま... -
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【連載】掌の物語⑧ 夢の途中・樹 亜希
きっとまた、私はこの人を好きになる。 そんな感じの出会いがいままさに、起ころうとしている。 今から、二十年ほど前の刑事ドラマが完結しないままに、劇場映画として再び蘇った。あの頃から大好きなキャストたちの大活躍に心躍るスクリーンに涙した、私。 それは特別に涙するシーンでもないのに。 あの時、そう、二十年ほど前にもこんな台詞を聞いたことがある気がした。 隣に座っていた人が少しだけ、私をみたように思えた。 しかし、そんなこと関係ない、今の私には。胸を焦がした歯の浮くような会話... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑧・鳴り砂の浜
気仙沼市には、2つの鳴り砂の浜辺がある。文字通り、歩くたびに「キュッ、キュッ」と小気味いい音が出る。 本当に音が出て、どんな音なのか?まずは短い動画を添付したので、それを確かめてから、以下の文章を読んでいただければ幸いだ。 底がなるべく平たく、革靴のように硬めで滑らかなほど音が出やすい。さらに、砂を踏むというより、すり足に近い方が、砂がよく鳴る。 撮影した日は、1年前のちょうど今頃。数日間、雨がなく、当日も乾燥注意報が出ていたほどで、砂が乾いた状態であればあるほど、機嫌... -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.3 ―長崎から下関への旅―横山 実
1.長崎からの旅立ち シーボルトは、長崎に到着してから2年半後の1826年2月に、参府旅行に加わって、長崎から江戸に向かうことになりました。参府旅行では、使節であるカピタン(オランダ商館長)ステュルレルに、長崎奉行所の役人、阿蘭陀通詞、料理人たちが同行しました。オランダ人の随員の定員は、医官と書記官の各1名でした。そこで、医官のシーボルトとともに、ビュルガーが「書記」として参府旅行に参加しました。地層学者であるビュルガーは、前年に、シーボルトの日本調査を手助けするために、オラン... -
芸術
太宰 宏恵さんが日本画を出展します。
ご存知の方も多いと思いますが、「一枚の写真」を連載していただいている太宰 宏恵さんは、日本画の画家でもあります。5月17日(金)〜19日(日)、横浜赤レンガ倉庫1号館で開催される「THE SQUARE VOL.2」に日本画を出展します。 *太宰さんの在廊日は未定です。 THE SQUARE VOL.2のサイト -
芸術
一枚の写真 「新樹光」・・太宰 宏恵
気持ちの良い風に揺られる新緑と、その間に輝く光の美しさに目を奪われるこの季節が大好きです。梅雨までの短い時期、爽やかなこの感覚を体いっぱいに取り込めるように、自然に囲まれる場所へ、できるだけ出かけたいと思います。 -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.2 ―来日と長崎での滞在―
横山 実1.シーボルトの来日 フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルトは、1796年2月17日に、貴族の家系の家で、現在のドイツ南部のバイエルン地方のヴュルツブルクで生まれています。ヴュルツブルク大学で、医学を学びましたが、そこでは、観察に基づく臨床医学が重視されていました。観察眼を養った彼は、恩師の影響を受けて、動物、植物、地理などにも関心を持つようになりました。 シーボルトは、国家試験に合格して医師の資格を取得した後に、東洋での研究を志しました。当時のドイツは、中央集... -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路(1)―東海道五十三次の浮世絵で辿る― 横山 実
1.連載の経緯 社会的に無名な私が、きらめきぷらすに、上記のような表題で連載原稿を書くことになったかの経緯を書かせていただきます。 きらめきぷらすの読者は、編集者の吉野さんが企画した、渡部全助が執筆した音楽に関する連載記事を楽しまれたことと思います。その連載記事は好評でしたので、渡部全助著『ZENさんのぶらり音楽の旅』として出版されました。その出版記念のパーティが、2023年2月20日にZENさんの行きつけのバーで開かれましたので、私は妻と共に出席しました。 音楽関係者でない私が、この... -
連載
【連載】掌の物語⑦ 思い出搾取・樹 亜希
私は毎日、知り合いも友人もいないこの東京の雑踏の中で一人戦っていた。もちろん先輩や上司、メンターのみんなに支えられて仕事ができていることは承知している。無理にではないが、自然とヒリヒリする現場の中で、疎まれない程度にいい顔ができるようになっている。 どこへ行ってもお姉さんなんでしょ? 弟がいる感じ。とか、お姉さんがいる感じなどと、勝手に想像されるのだが、私は本物の一人娘である。母親が男の子の子育てをしたくないと強く念じて、私が女としてこの世に生を受けた。 それだけに、甘や... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑦・怪物金と日露戦争
「鹿折金山跡地を流れる沢にある源氏の滝」 「あっ、これって?」 平な黒塗りのお椀の底に、キラリと光る小さな黄金色があった。大きさは2mm四方ほど。それは砂金。今から10年以上前になるが、気仙沼市北部にある鹿折(ししおり)金山跡地を流れる小川で行った体験講座を取材した際、私も挑戦。川砂を掬い、水をゆっくりと流す作業を繰り返すことわずか10分ほど。小粒以下の物とはいえ、黄金の輝きを手に入れることができた。 採算が全く合わないため、現代では行われてはいないが、気仙沼地域では今でも砂... -
音楽
見角 悠代(みかど はるよ)・音楽家への軌跡(3)
音楽大学では歳も知識も先輩な同級生がたくさんいました。藝大を3度挑戦してから入学してきたとか、一般大学へ行ったもののやっぱり音楽がしたくて編入してきたとか、そんな人がたくさんいて、実技の面ではもちろん、意識の上でも私は断然劣等生でした。付属の高校から上がってきた同級生たちは、聞いたこともない作曲家の何語かも分からない歌曲を歌ったりしていて、その上、たとえばオーケストラでベートヴェンの交響曲第7番を「ベトしち」などと略したりするのと同じように歌のことを話すので、まるで分らな... -
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【連載】写真短歌(5)・・川喜田 晶子
合はす掌(て)の芯に灯りて 天地(あめつち)をほのかに統(す)ぶる わがれんげ草川喜田晶子 三歳から五歳くらいのことだったでしょうか。ものごころのつき始めた私の〈日常〉のすぐ隣に、春になると広大なれんげ畑が現われました。むさぼるように、その淡い紫のひろがりに眺め入っていた記憶があります。幼い心にその光景は、永遠とか無辺、もうひとつの世界といったものの匂いを、やさしく焼きつけてくれたように思われます。何かを祈るとき、私の合掌の内側には、今も果てしなくひろがるれんげ野が在り、聖... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑥・リアスの方舟
リアス・アーク美術館 被災したモノたちの展示。このコーナーは自由に写真撮影ができる 「いただきます」「ごちそうさま」…。「いってきます」「ただいま」…。 そうした日常の会話が、聞こえてきそうだ。しかし、目の前にあるのは、2011年3月11日に気仙沼地方を襲った大津波により被災し、私たちの生活を支えていた「物」から、本来の使用ができない「がれき」へと化した「モノ」たちだ。 気仙沼市にあるリアス・アーク美術館の常設展示「東日本の記録と津波の災害史」には、美術館の学芸員らが約2年間にわた... -
連載
【連載】掌の物語⑥ あの時の約束・樹 亜希
今から考えると、植村くんは私のことはあまり好きではなかったのではないかと感じる。どこへ行く、何を食べる、何を買う、それもこれもすべて私が提案しないと植村君は何も自分では、決めることなどできやしない。それが植村君だった。 私は一人っこで、兄妹はいない。 一方、植村君には弟と妹がいる。 彼の弟は東京大学現役合格、妹は彼の母親が溺愛して、わがまま三昧というパワーバランスの中で、いつしか、自分の主張が何も聞き入れられないことが当たり前になり、その表情にもあるように、いつも死んだ... -
芸術
一枚の写真 「彩り」・・太宰 宏恵
花が見られる場所には、まるで蝶や蜜蜂のように人も集まるように思えます。そうした人々をレンズ越しに眺めると、とても幸せそうに見え、人間が自然の一部であることに気付かされます。グレートーンだった冬から、色彩豊かな季節へ変化していくこの時期、人の心の中も一緒に彩られていくのかもしれません。 -
連載
【連載】掌の物語⑤ 転生・樹 亜希
あなたは何回目? うわぁ、やっちまった。 思った時と、その後数秒のほんの瞬間に、走馬灯なんかなかった。とにかくこの状態からどうしたら逃れられるのかなんて知ったこっちゃない。 目が覚めると黄色い菜の花畑を上空から見ていた。 あ、私はバイクの単独事故で、小雨のなかを横断歩道でスリップして転倒したところまでは覚えていた。黄色い菜の花ににおいはなくて、どうして地上からではなくて、ドローンのような視点なのか、わからない。 隣から声がする。「気が早いね」「そうですか?」「お互いにさ... -
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【連載】写真短歌(4)・・川喜田 晶子
春湖(はるうみ)の抱けるかぎりの現世(うつしよ)の孤独の影に筆浸さまし -
芸術
一枚の写真 「春の訪れ」・・太宰 宏恵
梅が満開となり、色鮮やかな花の姿や雛人形を目にすると、いよいよ春の訪れを感じます。新しい出逢いや活動、環境など、変化の時期でもありますが、それぞれが美しく開花していきますように。そんなことを考えながらの一枚です。 -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑤・港まち・気仙沼
港町・気仙沼を代表する光景の一つに挙げるのが、岸壁を埋め尽くす漁船だ。 船の着岸といえば、岸壁に横着けするのを頭に思い浮かべると思う。気仙沼港でもイカ釣りや定置網など小型〜中型船は横着けしている。 ただ、こう言うと「あれ?漁船って、縦着けじゃないの?」と異論も聞こえてきそうだ。確かに、沿岸漁を主とする、いわば「浜」の岸壁には、船外機付き小船をはじめ、縦着けが多い場合もある。理由は簡単で、縦着けの方が、場所を取らないからだ。 しかし気仙沼魚市場の桟橋や内湾の一部などでは、... -
連載
【連載】掌の物語④ 霧の朝と明日の天気・樹 亜希
目が覚めたときに、寝室のカーテンを細く引くと外は雨で煙っていた。そのまま、鈍い頭の痛みにぼんやりとしていた。それでも時計のデジタル数字は確実に進んでいく。 ベッドから腰を上げてもう一度、外を見た。 あの映画と同じ光景が広がっていた。ミストというアメリカの映画だったと思うが、それを思い出して胸がざわざわした。この霧の向こうには行けないのではないだろうか。不条理劇の映画の再現ではないと信じたくて、窓の外を見るのはやめた。 二条城の壕に植えられた木々はおろか、その向こうの街並... -
音楽
見角悠代ソプラノコンサートVol.2「春に奏でるモーツァルト」4月14日(日)
見角悠代さん、ソプラノコンサートのご案内です。お近くの方はもちらん、少し時間をかけてでも聴く価値のあるコンサートになること間違いなしです。 プログラム「モーツァルトの百面相」/ 夜の女王のアリア 「復讐の炎は地獄のように」 ケルビーノのアリア「恋とはどんなものかしら」/ ヨハン・シュトラウス「春の声」他 日時:2024年4月14日(日) 13:30開場 14:00開演 全席自由3,000円(前売り2,500円)会場:東吾妻町コンベンションホール(東吾妻町役場) 〒377-0801群馬県吾妻郡東吾妻町大字原町1046... -
音楽
見角 悠代(みかど はるよ)・音楽家への軌跡(2)
第2回 運命の人が導いた音楽への道 高校は進学校だったので、受験希望校を書く紙とはずいぶん早くから何度も向き合っていた気がします。周囲の影響もあって、音楽への興味はほとんどなくなっていた私ですが、それでも夏期講習の後からはいくつかの一般大学名を書いた下に「音楽大学」とだけ書いていたように記憶しています。 やがて、また母によって運命の人の元へ導かれるのです。自分が音楽の道を歩いてきて、姉は美術大学へ進んだので、母はあるいは私を音楽の道に進めることを諦められなかったのかもしれませ... -
連載
【連載】掌の物語③ ウサギのこと・樹 亜希
地下鉄二条城駅の近くにかわいいカフェがある。 私はそれを知らなかった。どうして今まで知らなかったのかは、色々と私的に面倒かつ、思い出したくない辛いこともあり、ここでは触れない。 堀川という川には水の流れはほぼない。 昔は水量はあったのだろうか、かなり深くて広い。車線一本ほどあり、昔から不思議だなと思っていた。なんのために? その静かな街並みには、会社やホテルが並んでいる。 自転車で行ける範囲でカフェがあるときいて、私は走り出した。 街並みに溶け込んだ、たたずまいに兎珈琲の... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより④・金華山とアヴァロン
地図で宮城県を見ると、仙台から東の方向に松島があり、さらに太平洋に突き出した牡鹿半島を抱える石巻市がある。その半島の東端にある島が「金華山」だ。 島全体が黄金山神社の神域で、恐山、出羽三山と並ぶ「奥州三霊場」に挙げられる。神職のみが居住する島だが、多くの参拝客が訪れるほか、「神の使い」のシカが多く生息しており、例年秋には伝統行事「鹿の角切り」が催され、観光客で賑わう。 石巻市の島だが、牡鹿半島の山並みに隠れ、市内からその姿を眺める場所は少ない。松尾芭蕉が「奥の細道」で「... -
芸術
一枚の写真 「冬の朝に」・・太宰 宏恵
寒い朝、良く見ると霜のフリルをまとった落ち葉が重なり合っていました。太陽の光がが当たれば、すぐに消えてしまうこの様子を見られたことが、とても特別に思えました。 -
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【連載】写真短歌(3)・・川喜田 晶子
今宵また君の深みへ身を投げて月の素顔に逢ひにけるかも -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより③・震災
16mの高台にあった当時の女川町立病院駐車場。消防ポンプ車の上に乗用車が載っている。高台より2m高い津波で、避難してた車ごと流された人もいた。翌日、ポンプ車から燃油を抜き取っていた。長い物資不足との戦いが既に始まっていた。2011年3月12日午前7時10分ごろ。 「ここまで被害が甚大だとは…」。みんなが口をそろえる。元日に発生した能登半島地震。地震、火災、津波。自然の猛威が複合して被災地を襲った。13年前の東日本大震災を経験した身として、その惨状と、今後、長く続くであろう復旧・復興への道... -
連載
【連載】掌の物語② 邂逅・樹 亜希
お正月3日のお話ですが、編集部の都合で掲載が遅れました。 今日はあなたの誕生日、忘れようもないお正月の3日なんて。 卑怯だと思う、今もなお私の脳裏と心に刻んでいるんだから、あなたは私の誕生日など忘れてしまっているでしょ。 いつもより人の少ない道路の端を自転車で走りながら思う。 忘れたいのに、忘れられない記憶をフラッシュバルブ記憶という。 昨年からメンタル心理カウンセラーの資格取得講座の学習を始めて知った。大学時代には心理学を一年だけ勉強したが、バイトが忙しくてなかなか精読... -
音楽
歌劇「魔弾の射手」2月25日(日) つくばノバホール
歌劇「魔弾の射手」2月25日(日) つくばノバホール 魔弾が欲しい若い狩人マックス、彼を愛する娘アガーテ役で見角悠代が歌います。 -
プロフィール
見角 悠代(みかど はるよ)プロフィール
音楽家1980年生まれ 東京都在住 東京音楽大学音楽学部声楽専攻声楽演奏家コース卒業 同大学院音楽研究科修士課程 首席で終了 公益財団法人ロームミュージックファンデーション 2005年度音楽在外研修生としてドイツ留学 2009年までシュトゥットガルトを中心に研鑽 現在東京サロンシンフォニーオーケストラ ソプラノ・ソリスト二期会会員 東京サロンシンフォニーオーケストラ▶︎フェイスブック ▶︎公式サイト 発売中のCD ジャケットの画像をクリックすると購入ページ(ITO MUSIC)が開きます。 「はる... -
音楽
見角 悠代(みかど はるよ)・音楽家への軌跡(1)
第1回 人との出会いが行先を決めてくれた この度の取材を受けるまで私は、夢中で目の前のことに取り組み、そのことでおのずと道が開けてきて、流れに乗って進むうちに音楽家になったと思っていました。ですが、お話していくうちに気がつきました。たくさんの出会いを果たし、様々な人に導かれて音楽家になったのだと。その都度、人との出会いが行先を決めてくれたのだと。 その最初にして最たる存在が母です。私が生まれたその年に、彼女は合唱団「Kaffeekränzchen」を立ち上げました。コンビニどころかスーパーマ... -
連載
【連載】掌の物語① 白い祝福・樹 亜希
白い祝福 昨夜から冷え込むと思ったら、目覚めると窓の外は雪景色だった。 暖冬と叫ばれていた昨年末から、今年の年越しは本当に暖かかった。過ごしやすく、のんびりとしていると、長い横揺れに襲われた。地震、それもかなり大きな。 成人式が一月十五日ではなくなってから、何年が経過したのだろうか。 私は母親が虚栄心を満たすために、知り合いの呉服屋で買った、振り袖を否応もなく十八歳から着ていた。今では考えられないようなばかばかしい話だが本当なので、仕方がない。同じ大金をだすのならば何回も... -
連載
【連載】ギッチョムの気仙沼だより② はじき猿・風車
宮城県では、正月飾りを燃やして、正月以降の日々の安寧と、農漁業や商売などそれぞれの生業の弥栄(いやさか)を願う小正月行事「どんと祭」が、各地の神社で行われる。宮城県以外では「左義長」(さぎっちょう)や「ドント焼」という呼称で行われる所も多い。 -
連載
【連載】写真短歌(2)・・川喜田 晶子
真つ白な君の静寂(しじま)のひと呼吸 抱いた剣(つるぎ)の目ざむるやうに -
芸術
一枚の写真「迎春 皆様にとって豊かな実り有る一年となりますように」・・太宰 宏恵
写真提供:太宰 宏恵 -
編集部より
新年、明けましておめでとうございます。
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プロフィール
樹 亜希 プロフィール
小説家出版第二弾となる「哀傷」(文芸社)が2023年6月発売前作から3年、遂に書籍となる本作品を是非とも皆様に読んで頂きたく、細腕をさらに削り完成させました。既刊「双頭の鷲は鳴いたか」(幻冬舎刊 電子書籍)も宜しくお願いいたします。JADP認定メンタル心理カウンセラー 著作(表紙写真、解説はAmazonを援用しています) ¥1,100税抜単行本(ソフトカバー) – 2023/6/1【どうして真剣に男を愛することができないのだろう。欲しいと思う気持ちがあっても、慣れてしまうと飽きてしまう】(本文より)。社会に... -
プロフィール
細田 利之(編集長)
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連載
【連載】ギッチョムの気仙沼だより① 大島の亀山にモノレール
気仙沼沼湾に浮かぶ大島。東北地方最大の有人島で、面積は8.5㎢。東京23区で一番狭い、上野や浅草を抱える台東区が10.1㎢。比較するには人口規模が違うが、意外と広いとも言える。過去には5000人ほど居住していたが、少子化に東日本大震災などの影響も重なり現在は2200人ほどが住む。 -
プロフィール
佐藤 紀生 プロフィール
宮城県気仙沼市在住 気仙沼テレビ放送(現・気仙沼ケーブルネットワーク)を経て、三陸河北新報社。 「ギッチョムの気仙沼だより」連載中 -
連載
【連載】写真短歌(1)・・川喜田 晶子
弦月に斬られたやうな傷口は 君に逢ふまで塞がずにゐる -
プロフィール
川喜田 晶子 プロフィール
2019年の末頃から、Instagramにて写真短歌を発表しています。身近な自然の風景写真に短歌を取り合わせたり、短い詩的なキャプションを添えたり。 -
芸術
一枚の写真「やさしい夜に」・・太宰 宏恵
写真提供:太宰 宏恵 -
編集部より
編集部から
ごあいさつ -
社会貢献
明日へつなぐまごころ
とにかく自然体、その人の笑顔はチャーミングで底抜けに明るくキラキラしている。 誰もが魅了される86歳。 「手作りネクタイ」の講習を始め、「幸染め」を創業し50年、その活動を支え続ける源泉とは―。 -
芸術
太宰宏恵 日本画展「心の庭」
きらめきWEBマガジンに「一枚の写真 秋桜・休日の公園」を提供していただいた、太宰宏恵さんの個展のご案内です(9/24〜11/30)。 -
芸術
一枚の写真 「秋桜・休日の公園」・・太宰 宏恵
写真提供:太宰 宏恵 -
プロフィール
太宰 宏恵 -Dazai Hiroe プロフィール
日本人が古来より言葉を発することがない自然と関り、魅了され、表現しようとしてきた独特の「美しさ」を追求しながら日本画を制作して … -
芸術
映画『わたしのかあさん −天使の詩−』山田火砂子監督最新作
『わたしのかあさん −天使の詩−』2024年2月公開予定! 資料提供:株式会社現代ぷろだくしょん -
芸術
福祉の映画を作った初の映画監督 山田 火砂子
きらめきプラスvolunteer VOL:93より日本最高齢の女性映画監督の作品「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」が2022年に公開された時のインタビュー記事を全文公開。 -
プロフィール
山田火砂子監督 プロフィール
山田火砂子 監督: 1932年1月23日東京生まれ。…2024年2月最新作の映画「わたしのかあさん−天使の詩」公開予定。 -
編集部より
きらめきプラス・ボランティア から きらめきぷらす・ウェブマガジンへ
ごあいさつ -
最新記事
松田哲博の相撲道『次郎長と鉄舟と浦五郎』
初代高砂浦五郎と清水次郎長親分、幕末の剣豪 山岡鉄舟。幕末から明治の動乱を生き抜いた男たちの絆。 -
プロフィール
松田 哲博 プロフィール
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バックナンバー
2023年6月・Vol.97
Vol.97は、電子書籍として全ページ公開中。 -
バックナンバー
2023年3月・Vol 96
【表紙の絵】 マリア・イスキエルド作「写真機のある静物」(1931年)