気仙沼市に寄せられた2024年度の「ふるさと納税」の寄付額が昨年末で既に100億円の大台を大きく超え、112億7000円に達したことを市は明らかにした。前年度(2023年度)、東北で最多を記録した94億円から更に上積みをし、初の100億円台に乗せた。本年度の「東北一」連覇も見えてきた。
4年前の20年度には4億円だった気仙沼市への「ふるさと納税」寄付額は、21年度に14億円、22年度に49億円、前年度の94億円と倍々ペースで増加してきた。前年度は年末からさらに8億4000万円上積みしており、本年度は120億円を伺う勢いだ。
ここ数年の大幅ジャンプアップの要因は、なんと言っても「返礼品」の充実と、口コミによる「返礼品の質の高さ」「コストパフォーマンスの良さ」などが相乗効果を生み出したものと見られている。
現在、気仙沼市の返礼品は約1200種類。地元企業の主力商品である水産物のカキ、カニ、イクラ、フカヒレなどが並ぶほか、市内の牧場が生産する、宮城県の特産品の筆頭「牛タン」、さらには小さな子供達にも好評な「ハンバーグ」「サーモンの切り身」など価格帯を含め、贈答品から、各家庭の食卓を賑わす商品を用意。さらに、都会では特に深刻だったコメに、本年度は人気を集めた。
前年度に東北1位に躍り出たことで、マスコミに取り上げられる機会が増えたこと、そしてSNSをはじめとするインターネットでの「口コミ」の情報伝達力が大幅にアップした点にも注目したい。
市側も、寄付の窓口であるポータルサイトを本年度当初の21から4つ増やし25にした、老若男女、家庭、企業など寄付する側の裾野を広げる努力をしたほか、それぞれの返礼品の特徴や「本場もん」や「お得感」などを丁寧かつ魅力的にアピールする点にも注力した。
個人的に、返礼品の質以上に、品物のプレゼンに対する生産者の姿勢の変化を挙げたい。2011年の東日本大震災後、販路の多くを失った商店や加工場、生産者を対象にしたセミナーを取材したことを思い出す。市内の金融機関が無料で開講したのだが、そこでは徹底的なリサーチ、売り込みたい客層の明確化ーなどを学んだ。例えば「サーモンの切り身」などについては、「東京都内のサラリーマン世帯」などという漠然としたものではなく、世帯構成、特に子どもの数と年齢層、更には共働きかどうかなどを細かく設定をするーという指導があった。参加した事業主の1人は「そこまで絞り込む意味が分からない」「独自のリサーチなんてやったことない」という声が多数だった。
しかし、多くの業界で、しのぎを削る企業は、そこまで具体的に想定をし、品物の販売形態、例えばサーモンの切り身も焼き鮭を想定するのか、寿司ネタを想定するのかでも大きさが違う。パッケージやキャッチコピーに至るまで、考えに考えて、それぞれが「商品」という形で市場に投入している。
数回のセミナーを受けた後、ある生産者は「商品には絶対の自信がある。それでいいと思っていた。足りなかったのは、買ってもらう消費者の視線だった」と、真剣かつ前向きな顔になっていたのを覚えている。
行政である市も、返礼品を提供する生産者も、震災後に大きく意識が変わっていたのだ。それは震災の際にボランティアをはじめ多くの人の支援を受けて、復興したことへの心の底からの感謝がある。「ふるさと納税で、いっちょ稼いでやろう」という下心は否定はしないが、私が知る限り、返礼品を生産している人や事業所は良心的なところばかりだ。それに今の世の中、アコギな姿勢は、その化けの皮も簡単に剥がされるのだ。
市はふるさと納税を人口減対策や教育施策充実の財源に活用している。また新しいたな使途として、気仙沼らしさを高める水産&観光戦略へも投資する。
訪日外国人の数が過去最高を記録したが、東北各県は軒並み、全国的に少ない人数にとどまる。しかし外国人の訪問地域は年々、多彩化している。「少ない」ということは「伸び代」があるということでもある。「ふるさと納税」増額で見せた「チーム気仙沼」の団結力を発揮してほしいと願う。
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