【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑩ 夏の旬・カツオとホヤ

気仙沼の夏の食卓の定番、カツオの刺し身とホヤ酢

 気仙沼港を代表する魚を一つ挙げるとするならば、それは何と言ってもカツオになる。カツオと言うと、高知県や鹿児島県をイメージする人が多いと思う。カツオのたたき、カツオ節など代表的な食文化を持ち、それは全国区で浸透している。
 しかし生鮮カツオの水揚げ日本一となると、それは気仙沼港になる。昨年で27年連続となり、今年も「戻りガツオ」シーズンとなる秋を待たずしてライバルの千葉県勝浦港に肉薄。追い越すのはもはや確実な状況だ。
 カツオは黒潮に乗り、西日本から東北まで北上。いわゆる「上りガツオ」で、まだ脂の乗りは少なく、さっぱりとした風味で「初ガツオ」を味わえる。
 そして秋。水温の低下とともに、群れはUターンし再び、西日本を目指す。こちらは脂が乗った濃厚な味で、もちもちとした身に脂の旨みが加わった「戻りガツオ」となるのだ。
 カツオの漁獲には、竿で豪快に釣り上げる一本釣りと、巻き網の2種類がある。双方とも三重、高知、宮崎などから群れを追って動く。最盛期となるのが三陸沖。古くから天然の良港であった気仙沼を拠点に、稼ぎどきにはまさにピストン操業をする。
 なぜ気仙沼港が日本一を続けられているのか。水揚げされた魚の多くは首都圏へと向かう。ゆえに気仙沼は地理的には全く利がない。実際、船内で急速冷凍した遠洋マグロ船は、例え気仙沼港所属船でも静岡県焼津港に水揚げする場合が圧倒的に多い。輸送コストを考えれば当然だ。
 それでもカツオは気仙沼に集まる。その理由は大きく分けて4つある。
 1つ目は、最盛期に気仙沼沖が主漁場となる。鮮度のいいカツオを短期集中で獲り、港に戻れる。
 2つ目。カツオ漁を支える後背施設が充実していること。大量の氷製造、迅速な水揚げ体制、生鮮出荷のみならず加工場も多い。1日で数百トンが水揚げされようとも、びくともしない。ゆえに値段も安定し、船は収支の算段をつけやすい。さらに、これが意外と重要なのだが、餌の確保がある。一本釣り船は、カツオの群れを見つけると、イワシを撒き餌とし、群れを誘き寄せる。そのイワシは生き餌でなければならない。気仙沼港沖合には、イワシの蓄養イカダがあり、漁場へ向かう直前に餌を仕込むことができる。
 3つ目。それは1年の半分を気仙沼で過ごす各県の漁船員の生活を支えるスーパーや銭湯、息抜きできる酒場など、気仙沼の街全体で、故郷を離れて働く海の男たちが快適に過ごせるよう、今で言えばホスピタリティーが行き届いているからだ。
 そして4つ目。それは技術革新。水揚げしたカツオをベルトコンベアで運ばれる途中で大きさによって選別される。そしてかつては竹籠、昭和40年代以降は徐々にプラスチック製パレットへと入れ替わった。カツオを小分けした魚カゴが魚市場の桟橋を埋め尽くす光景は今でも忘れられない。
 2003(平成15)年、今から21年前に、高さ縦横約1.5x1m、高さ1mほど、ちょうどフォークリフトで持ち上げて運ぶのにちょうどいいプラスチック水槽で、カツオを出荷施設や加工施設に運ぶ「タンク取り」が始まった。気仙沼有数の加工会社が生み出した手法で、タンク内には水を入れ、カツオを外気に晒す時間を大幅に減らす効果もある。ちょっとした変革だが、それが鮮度保持、作業の効率化に果たした功績は絶大。かつては同じ宮城県石巻港が巻き網、気仙沼港が一本釣りと棲み分けしていたが、徐々に気仙沼港に巻き網船も拠点を移した。その結果、ライバル勝浦港に競り勝つ年が続いているのだ。  
 気仙沼は、日本で一番最初に魚介類の商業冷蔵庫が設置された地でもあり、チクワ発祥、そして今や代名詞となったフカヒレは揺るぎないブランドとなった。
 気仙沼の夏の味覚といえば、もう一つ。ホヤを挙げなければならない。世界的なシェフ三国清三さんは、北海道で過ごした幼少期にホヤを食べ、その味を原点にしている。「塩味、甘味、酸味、苦味、うま味」の五味が全てあり、そのバランスも絶妙だと指摘する。
 三国シェフは東日本大震災前から、気仙沼の子供達が創作料理を競う「プチシェフコンテストin気仙沼」の審査委員長を続けており、ホヤの魅力を広めることにも力を注ぐ。
 しかしホヤはまだまだ全国区では「珍味」の域を出ない。今から30年近い昔の話だが、東京の居酒屋でホヤのメニューを見つけ、注文したが、運ばれてきたホヤの色、匂いだけでアウト判定。そうホヤは鮮度落ちが早い。これが致命的だった。今の保存技術、そして蒸すなどの加工により、随分と食べやすくなったとは思う。蒸したホヤを使ったパスタはうまい。
 でも、やはり相性のいいキュウリを添え、醤油を垂らし、わさびでアクセントを効かせたホヤ酢こそが至福の味である。日本酒との相性は抜群だし、ビールといただくとミラクル・フルーツ並みにビールが甘く感じる。
 ぜひ気仙沼に来た際はご賞味あれ。ホヤの旬はまさに7月、8月。お待ちしています。

*水揚げの様子などは、こちらをご覧ください。(別サイトが開きます)
https://osakana-ichiba.net/hpgen/HPB/categories/18502.html

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