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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(23)・「氷の水族館」
気仙沼市 「氷の水族館」 *現在の展示とは異なります。 気仙沼にはユニークな水族館がある。それは「氷の水族館」。マイナス20度という冷凍庫の中に、氷の中を「泳ぐ」魚が展示されている。全国有数の漁港である気仙沼。その気仙沼魚市場に水揚げされるサンマやカツオ、マダコ、沿岸漁でとれるカサゴやキンメダイなどなど約40種類700匹の魚が、列を成して「泳ぐ」。その姿が高度な技術で作られた透明度の高い氷の中に封印されている。世界でも珍しい、生きた魚のいない水族館だ。 気仙沼にこの「氷の... -
【連載】写真短歌(20)・・川喜田 晶子
蜩の声の途切れを超えてゆけ 誰も知らない君の言葉で川喜田 晶子 〈もうひとつの世界〉の入り口へとひたすらに伸びてゆく、金色の糸のような蜩の声。その声の糸を、耳と魂とで丁寧に辿ってゆこうとするのですが、糸はときどきぷつりと途切れ、静寂へ突き返される無念と安堵が胸底にひろがります。蜩の声のその先へ紡ぎ足す糸のようにして生まれたのが、原初の〈言葉〉というものだったかもしれません。 -
一枚の写真「雨上がりに」・・太宰 宏恵
古来から水の演出は、日本の夏の暑さを凌ぐための工夫であり、不思議な文化のひとつだと言えるでしょう。内水や霧吹きで潤いを与えると、蒸気が実際の温度を下げてくれるだけでなく、視覚的にとても涼やかに感じます。 お部屋の中に飾られる季節の植物に水滴がついていると、1度くらい体感温度が変わるような気持ちになってしまうのは、私だけでしょうか。 そんな景色が見られるかもしれないと思い、雨上がりに蓮の有る公園に出かけました。予想通り、可愛らしい水の粒が、風に揺れる大きな蓮の葉の上でコロコロ... -
【連載】ギッチョムの気仙沼だより(22)・道の駅「大谷海岸」
気仙沼市の南の表玄関とも言えるのが、道の駅・大谷(おおや)海岸。気仙沼市本吉町にあり、三陸縦貫道の「大谷海岸インターチェンジ(IC)」を降りて、わずか500m北に進むだけなので所要時間は3分と掛からない。しかも三陸縦貫道の石巻市以北は、東日本大震災の復興道路として整備されたため、無料区間となっており、事実上、三陸道に併設されている施設とも言える。乗り降り自由なので、寄り道しやすい。 ポールの先には「マンボウ」図柄の看板がある。道の駅・大谷海岸、その目の前に広がる大谷海水浴場... -
一枚の写真「いつもの場所」・・太宰 宏恵
当たり前のように自分の周りにあるもの、いつも通り過ぎている場所、そこに在ることは知っていても、敢えて見なかったものに、意識を向け始める「切り替え」のような時があります。 それは、「いつも」の場所やものを「特別」に見せ、新しい感覚や気づきを運んで来てくれます。 そんな時、決まって私は感謝します。身近にこんな景色があったこと。優しい人に囲まれていたこと。美しいと思えるものに、出会えたこと。 そんなことを思いながらの今月の一枚は、子供の頃からずっと近くにある、【いつもの場所】です。... -
【連載】写真短歌(19)・・川喜田 晶子
永遠の少し手前が揺れてをり また君に逢ふはずの水域 川喜田 晶子 人やモノや風景との、ときめきを帯びた出逢いの瞬間には、〈永遠〉の匂いがまとわりついているような気がします。目の前に在りながら〈ここではない何処か〉の気配がするそれらとの出逢いを結び目として、私たちの〈有限〉の生は、実は〈永遠〉から測り知れないエネルギーをチャージしているのでしょう。早苗田の水面には、永遠と有限がすくすくと混じり合っています。 -
一枚の写真「空を覗いて」・・太宰 宏恵
今回は、いつもと少し違ったイメージの写真を選ばせていただきました。晴天の昼間に、水に映る雲がかった太陽を撮影しただけなのですが、反転した世界として見える空の様子が、なんとも不思議な空気感となりました。 目の前に広がる景色や植物を直接的に撮影したものとは違って、かなり抽象的な写真にはなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。 太宰 宏恵 -
【連載】写真短歌(18)・・川喜田 晶子
六月は君の涙のうぶ声に重なるやうに口笛を吹く川喜田 晶子 物語や歌は、その作者だけが創造的なのではなく、その作品に、己れの内なる想いを重ね合わせ、流れ出させることのできる読者もまた、大いに能動的な表現をしているように思われます。魂の深い井戸を揺らすような作品と、この世で幾つ出逢うことになるでしょうか。 -
【連載】ギッチョムの気仙沼だより(21)「風待ちの街」
気仙沼の顔と称される気仙沼湾の最奥部。「内湾地区」と呼ぶ、その一帯は気仙沼市の「へそ」とも言える場所だ。 東日本大震災前は、離島であった大島とを結ぶ定期航路の汽船やフェリーの発着所があり、背後には気仙沼の中心市街を抱えていた。天然の良港として知られる波穏やかな入江は、リアス海岸特有の折りたたんだ海岸線の行き止まりにある。 昭和31年、内湾の入り口よりやや外側にある現在地に移転するまでは一番奥に気仙沼魚市場があり、まさに「港まち・気仙沼」の中核を形成していた。 震災後は、... -
【連載】写真短歌(17)・・川喜田 晶子
かぎりなくやはらかく闘ふ者の幸(さきは)ふ五月となりにけるかも川喜田 晶子 これでもかというほどのやわらかさで、この世界にデビューした新芽たち。彼らは私の中にも居るのだけれど、さて、居心地はよいだろうか。ここかしこで彼らに出逢うたび、そのような問いが浮かびます。いつまでも彼らがそのやわらかさでよく闘い、幸せに過ごしてほしいと願う五月。とても愛おしい季節です。