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【連載】一枚の写真「天空から」・・太宰 宏恵
先日、今にも熊が出てきそうな山道を車で上がった宿に、一晩お世話になりました。 街が見えなくなるくらい高い場所でしたので、美しい朝の山々の景色が見られるかもしれないと、淡い期待を胸に就寝。翌早朝6時、お部屋から障子を引き、外に広がる一面の雲海の景色に、思わず絶句です。 「気温差の多い日に雲海は見えるのですが、昨夜は急に気温が下がったので、、、、こんなにきれいに雲海が見られるのは、今シーズン初かもしれません。」と、後に宿のスタッフの方が教えてくださいました。 雲の様子が刻一刻と変... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(25)・「港まち記者の卒論」
今回は、まさに「私事」について書く。 このブログを主宰している細田利之さんが経営する株式会社「エン」の出版事業部から「港まち記者の卒論〜『気仙沼人』との泣き笑い見聞録」を10月9日、出版した。無名以下の著者ゆえ、Amazonからの直販のみ。街の本屋さんでは購入できない。ただし気仙沼だけは、地元の書店でも購入できるようにする予定だ。 内容は、記者時代にいろいろな場面で出会った12組(計22人)へのインタビューと、記者として体験した出来事を四つに分け、オムニバス形式で挟み込んで... -
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【連載】写真短歌(22)・・川喜田 晶子
深々と眠る獣のたましひのさやばしるやうに秋は来にけり川喜田 晶子 〈眠り〉が、人の意識よりも無意識と深く繋がっているのなら、私たちは、眠っているあいだにしかできない仕事を、自分でも知らないうちに成し遂げているのかもしれません。あるいは、だれかの魂と、知らないうちに出逢っているのかもしれません。この世界の〈気〉の動きは、私たちの〈眠り〉が司っている、と考えるなら。深まる秋の眠りの中で、今宵は誰と出逢い、何を成し遂げられるでしょうか。 -
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【連載】一枚の写真「曼珠沙華」・・太宰 宏恵
幼い頃、小道で初めて遭遇した曼珠沙華に、ぞっとして慌て逃げた記憶があります。 墓地の近くに咲いていたからなのか、纏う独特の妖艶な雰囲気のせいなのか、若しくは、深い紅の色彩が、子どもの私には恐ろしく見えたのか、大人になり不思議な思い出を振り返ると、実は曼珠沙華には毒が有るということを知りました。 反対に、大人になってこの花に魅了される理由は、そこにあるのかもしれません。あらゆる人間が作り出す造形物においても、完全、完璧なる何かより、密かな少量の雑味や遊びがある方が、味わい深さ... -
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【連載】写真短歌(21)・・川喜田 晶子
猫じやらしひと群れほどの幼さに照らされてゐるわが心かな川喜田 晶子 おそらく三才くらいの頃から、自分の中には、猫じゃらしのような〈幼さ〉が居すわっているようです。なにがしかの生き難さを感じた時に、その生き難さの元凶に向かって、良くも悪しくも精いっぱい抗ってくれるのは、この〈猫じゃらし〉。あまり増殖しても困るのですが、失っても困る。猫じゃらしひと群れほどの放つ光は、時に、叡智に満ちて感じられます。 -
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【連載】一枚の写真「ゆらめく」・・太宰 宏恵
9月に入り、私の暮らす関東では、黄金色になった田んぼの稲が、次々と刈り取られていきます。 辺り一面に覆われていた稲が無くなると、その景色から、寒い季節へ向かっていることを突然認識し、地面の落穂と、刈られた後の稲の束がいっそう寂しく感じます。 日本人がお米を食べ始めたのは、遥か昔の3000年ほど前だそうです。完全に同じ形ではないにしても、日本人がずっと育て、伝えてきた大切なもののひとつであることは間違いありません。途方もない時間を経て、私にまで届いてくれた奇跡。 遠い先人たちと... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(24)・「気仙沼のサンマ、サンマの気仙沼」
今年、佐藤家から長女の嫁ぎ先に送ったサンマ サンマ。 カツオと並んで気仙沼港の水揚げを支えてきたサンマ。秋、魚市場はサンマと、戻りガツオの水揚げで賑わう。 その殺気立つような、湧き立つような水揚げラッシュは、地元記者をしていた私にとっても、気仙沼港が一年で一番、活況を呈する、その空間に身を置く喜びを与えてくれた。 そのサンマ。ここ数年は不漁が続いている。量も少なければ、魚体のサイズも小さい。昨年、気仙沼で水揚げされたサンマ。佐藤家の食卓に載った塩焼きは、まさにイワシサイ... -
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【連載】ギッチョムの気仙沼だより(23)・「氷の水族館」
気仙沼市 「氷の水族館」 *現在の展示とは異なります。 気仙沼にはユニークな水族館がある。それは「氷の水族館」。マイナス20度という冷凍庫の中に、氷の中を「泳ぐ」魚が展示されている。全国有数の漁港である気仙沼。その気仙沼魚市場に水揚げされるサンマやカツオ、マダコ、沿岸漁でとれるカサゴやキンメダイなどなど約40種類700匹の魚が、列を成して「泳ぐ」。その姿が高度な技術で作られた透明度の高い氷の中に封印されている。世界でも珍しい、生きた魚のいない水族館だ。 気仙沼にこの「氷の... -
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【連載】写真短歌(20)・・川喜田 晶子
蜩の声の途切れを超えてゆけ 誰も知らない君の言葉で川喜田 晶子 〈もうひとつの世界〉の入り口へとひたすらに伸びてゆく、金色の糸のような蜩の声。その声の糸を、耳と魂とで丁寧に辿ってゆこうとするのですが、糸はときどきぷつりと途切れ、静寂へ突き返される無念と安堵が胸底にひろがります。蜩の声のその先へ紡ぎ足す糸のようにして生まれたのが、原初の〈言葉〉というものだったかもしれません。 -
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一枚の写真「雨上がりに」・・太宰 宏恵
古来から水の演出は、日本の夏の暑さを凌ぐための工夫であり、不思議な文化のひとつだと言えるでしょう。内水や霧吹きで潤いを与えると、蒸気が実際の温度を下げてくれるだけでなく、視覚的にとても涼やかに感じます。 お部屋の中に飾られる季節の植物に水滴がついていると、1度くらい体感温度が変わるような気持ちになってしまうのは、私だけでしょうか。 そんな景色が見られるかもしれないと思い、雨上がりに蓮の有る公園に出かけました。予想通り、可愛らしい水の粒が、風に揺れる大きな蓮の葉の上でコロコロ...
