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【連載】写真短歌(22)・・川喜田 晶子
深々と眠る獣のたましひのさやばしるやうに秋は来にけり川喜田 晶子 〈眠り〉が、人の意識よりも無意識と深く繋がっているのなら、私たちは、眠っているあいだにしかできない仕事を、自分でも知らないうちに成し遂げているのかもしれません。あるいは、だれかの魂と、知らないうちに出逢っているのかもしれません。この世界の〈気〉の動きは、私たちの〈眠り〉が司っている、と考えるなら。深まる秋の眠りの中で、今宵は誰と出逢い、何を成し遂げられるでしょうか。 -
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佐藤 紀生さんの本、出版!「港まち記者の卒論」〜「気仙沼人」との泣き笑い見聞録
「ギッチョムの気仙沼だより」を連載中の、佐藤 紀生さんの本、『「港まち記者の卒論」〜「気仙沼人」との泣き笑い見聞録』を出版しました。大手メディアでは伝えきれなかった、気仙沼のあの時と今、そしてこれからを、地元記者ならではの視点で書いていただきました。気仙沼の方、宮城県の方、東北の方はもちろん、全国の方に読んでいただきたい素晴らしい本です。この本の出版に携われたこと、幸せなことだと思っています。 2025年10月10日きらめきぷらす:編集長 細田 Amazonでの購入はこちらから 目次 カツ船... -
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【連載】写真短歌(21)・・川喜田 晶子
猫じやらしひと群れほどの幼さに照らされてゐるわが心かな川喜田 晶子 おそらく三才くらいの頃から、自分の中には、猫じゃらしのような〈幼さ〉が居すわっているようです。なにがしかの生き難さを感じた時に、その生き難さの元凶に向かって、良くも悪しくも精いっぱい抗ってくれるのは、この〈猫じゃらし〉。あまり増殖しても困るのですが、失っても困る。猫じゃらしひと群れほどの放つ光は、時に、叡智に満ちて感じられます。 -
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【連載】写真短歌(20)・・川喜田 晶子
蜩の声の途切れを超えてゆけ 誰も知らない君の言葉で川喜田 晶子 〈もうひとつの世界〉の入り口へとひたすらに伸びてゆく、金色の糸のような蜩の声。その声の糸を、耳と魂とで丁寧に辿ってゆこうとするのですが、糸はときどきぷつりと途切れ、静寂へ突き返される無念と安堵が胸底にひろがります。蜩の声のその先へ紡ぎ足す糸のようにして生まれたのが、原初の〈言葉〉というものだったかもしれません。 -
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【連載】写真短歌(19)・・川喜田 晶子
永遠の少し手前が揺れてをり また君に逢ふはずの水域 川喜田 晶子 人やモノや風景との、ときめきを帯びた出逢いの瞬間には、〈永遠〉の匂いがまとわりついているような気がします。目の前に在りながら〈ここではない何処か〉の気配がするそれらとの出逢いを結び目として、私たちの〈有限〉の生は、実は〈永遠〉から測り知れないエネルギーをチャージしているのでしょう。早苗田の水面には、永遠と有限がすくすくと混じり合っています。 -
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【連載】写真短歌(18)・・川喜田 晶子
六月は君の涙のうぶ声に重なるやうに口笛を吹く川喜田 晶子 物語や歌は、その作者だけが創造的なのではなく、その作品に、己れの内なる想いを重ね合わせ、流れ出させることのできる読者もまた、大いに能動的な表現をしているように思われます。魂の深い井戸を揺らすような作品と、この世で幾つ出逢うことになるでしょうか。 -
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【連載】写真短歌(17)・・川喜田 晶子
かぎりなくやはらかく闘ふ者の幸(さきは)ふ五月となりにけるかも川喜田 晶子 これでもかというほどのやわらかさで、この世界にデビューした新芽たち。彼らは私の中にも居るのだけれど、さて、居心地はよいだろうか。ここかしこで彼らに出逢うたび、そのような問いが浮かびます。いつまでも彼らがそのやわらかさでよく闘い、幸せに過ごしてほしいと願う五月。とても愛おしい季節です。 -
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【連載】写真短歌(16)・・川喜田 晶子
北向きの心に君は棲みつきて鳥のかたちに身をととのへて川喜田 晶子 定住を好む農耕民タイプか、旅を好む漂泊民タイプか。人それぞれではありましょうが、定住を好む者の心にも異郷への憧れはあり、旅を好む者の心にも定住という安らぎへの渇きは潜んでいるでしょう。渡り鳥たちが北へ旅立つ季節。彼らの旅にも、彼らの留守を過ごす湖にも、どうか幸のありますように。 -
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【連載】写真短歌(15)・・川喜田 晶子
花びらと闇のあはひに湧く酒の熟すがごとく人の恋しき川喜田 晶子 人の予定などおかまいなしに、〈恋〉は、人生に幾度か降りかかって来ます。〈恋〉というものに魂をわしづかみにされることで、人は、己れで己れを統御し切ることなど不可能なのだと学習し、世界観を更新し、とびきりの酒のようにおもむろに熟してゆくものなのかもしれません。桃の花を見ていると、そこには童女のようなあどけなさと成熟した女性の「思いのたけ」とが同居しているような気がして、美味しいお酒が呑みたくなってまいります。 -
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【連載】写真短歌(14)・・川喜田 晶子
八百万(やほよろづ)の枝々に わが鱗(うろくづ)のひとひら しんと隠されてをり川喜田晶子 生まれる前だったか、生まれてから目が開くまでの間だったか、この天地に散らばってしまった自分の〈鱗〉は、風景の中に上手に隠されていて、今生におけるその〈鱗〉との再会が、〈詩〉というものなのではないかと思っています。ひとひらひとひら、丁寧に出逢い直したいものです。
