【連載】ギッチョムの気仙沼だより(12)気仙沼ホルモン

*写真は、ホルモンを焼きつつ、ビールを飲む至福の瞬間。
撮影場所は「お福」店内。

 俗に言う「ご当地・B級グルメ」。

 気仙沼では、脂の乗った戻りガツオ、塩焼きサンマ、全ての味覚を堪能できるホヤ、秋以降に旨みを増すカキ、メカジキ…などなどの豊富な魚介類、さらには隠れた名産であるマツタケ、きれいな水が育む酒米から造られる地酒、あっ!忘れてはいけないフカヒレなどなど枚挙に暇がないA級グルメが盛りだくさん。

 そんな大谷翔平選手クラスの名グルメに対して、気仙沼人にとって愛してやまない肉料理。全国的にもラーメンや焼きそばと並んで登場するホルモン。そう、気仙沼を代表するB級グルメこそ「気仙沼ホルモン」なのだ。炭火焼きで食べることが基本ゆえ、まさに「いぶし銀」の気仙沼ホルモンなのだ。

 気仙沼ホルモンとは何か。まず豚ホルモンであること。それを炭火で焼き、ニンニク味噌だれを付けて、食べる。そして大量のキャベツの千切りにウスターソースを掛け、それをワシワシ食うーと言うのが原則だ。
 原則と書いたのは、炭火焼きでない場合や、ニンニク味噌だれでない場合などもあるからだ。だが、食肉店で購入し、家庭で調理したり、野外でバーベキューをする場合はコンロで調理するなどの例外もある。ただ、店で食べる場合、個人的には、この原則を満たす店を選ぶ。

 それぞれ「推し」の店があるのだが、個人的には気仙沼市片浜にある「お福」を推薦したい。個人的に30年以上通う店であり、東日本大震災で店舗を流されたが、近い場所に再建したーというのも、常連としては一際、応援する思いが強い。もちろん、文句なしに旨い店であることが一番なのだ。

 今でも月に1回は家族で、友人らと足繁く通う。この集いを私は「ホルモン教のミサ」と呼んでいる。よく似た名前の敬虔な宗教もあるようだが、一切、無関係だし、茶化すなどという邪な考えは微塵もない。ホルモン教徒にとって、ホルモンをガツガツ、千切りキャベツをワシワシ食い、そしてビールや焼酎をグビグビ飲んで、みんなでガヤガヤおしゃべりを楽しむー。とにかく、腹が膨れるほど食い、お酒に酔いしれる。その食欲に全くリミッターを掛けないーというのが、唯一のホルモン教の教義だ。

 「お福」のホルモンもそうだが、新鮮な臓物をとにかく丁寧に洗い、徹底的に臭みを取り除く。ニンニクはあくまでも味を引き立てるためで、臭みを誤魔化すためではないことが重要。そして、それを炭火でこんがりと焼く。焦げて上等!というのがベスト。炭火がホルモンの旨みを引き出し、そしてもうもうと立ち上がる煙が、食欲を煽るのだ。

 気仙沼ホルモンの歴史は定かではない。戦後、漁船漁業が沿岸から沖合を目指すにつれ、水喘げのために母港に戻って来た漁船員が、安くて美味しい肉料理を求め、それに応じたのが始まりとされる。豚の処理場が、比較的近い場所にあり、入手がしやすかったーというのもあるようだ。そして、いい相方として添えられる山盛りの千切りキャベツは、野菜不足になりがちな漁船員の体を思ってのことーというのが有力だ。

 よく「気仙沼ホルモンの食べ方」として、焼いたホルモンをキャベツに載せ、一緒に口に運ぶーという説明があるが、それは違う。まあそれもありだが、私はホルモンを口に放り込み、きちんと味わい、食べた後にビールで喉を潤す。それを基本として繰り返しつつ、時折、千切りキャベツを食べ、またホルモンを食す。これを繰り返す。決してキャベツとホルモンを一緒に口に放り込むことはしない。まあ、そこは好みだが、ホルモンの旨みを味わうなら、別々をお勧めしたい。
 「お福」では、牛タン、牛カルビとを組み合わせたセットもある。美味しい魚介類には感謝しつつ、たまに肉料理を堪能する。それが気仙沼人にとってはホルモン。その思いがつくり上げたのが、港まちの「気仙沼ホルモン」なのだ。

 「お福」ではランチもある。夜は満席になることも多々ある。必ず予約してほしい。常連の私もきちんと数日前に予約して訪れる。それが客としてのマナーだと思う。常連だからこそ、常連面(づら)だけはしたくない。これもホルモン教の慎ましやかな教義でもある。

 ぜひ気仙沼においでの際は、美味しい魚介類とともに、気仙沼ホルモンを味わってほしい。昨今は宅配もある。それぞれの食肉店の違いも楽しい。ぜひ、なんちゃって教徒の仲間入りをしてほしい。お待ちしています。

ホルモンお福
〒988-0123 宮城県気仙沼市松崎中瀬291−3
0226242862

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