【連載】シーボルトの江戸への旅路(1)―東海道五十三次の浮世絵で辿る― 横山 実

1.連載の経緯

社会的に無名な私が、きらめきぷらすに、上記のような表題で連載原稿を書くことになったかの経緯を書かせていただきます。
 きらめきぷらすの読者は、編集者の吉野さんが企画した、渡部全助が執筆した音楽に関する連載記事を楽しまれたことと思います。その連載記事は好評でしたので、渡部全助著『ZENさんのぶらり音楽の旅』として出版されました。その出版記念のパーティが、2023年2月20日にZENさんの行きつけのバーで開かれましたので、私は妻と共に出席しました。
 音楽関係者でない私が、このパーティに出席したかという理由は、ZENさんは、中央大学犯罪科学研究会の先輩であるということです。
パーティの席で、吉野さんにシーボルト・ゼミナールでの私の講演について、話しましたところ、吉野さんは、興味を示されました。そこで、吉野さんから話を聞いた細田利之編集長が、後述するように準備してくださったのです。

2.シーボルトゼミナールでの講演の経緯

 シーボルトゼミナールを企画している大胡真人さんは、2024年3月18日(月)の午後6時半からOAG・ドイツ文化会館 1階 ホールで開催する第180回講演会のチラシで、次のように書いておられます。
「公益社団法人OAG・ドイツ東洋文化研究協会は、1873年、在日ドイツ外交官、学者、貿易商により設立され、今年で151年になります。設立当初から、伝統の研究会を開催しています。シーボルト・ゼミナールは毎月一回(原則第2月曜日、7-8月休会)開催され、どなたも随時参加できます。179回を数える、幕末・明治にわたるシーボルトが研究した様々なマターをテーマとする講座に成長し、その存在はドイツでも知られています。」
 2023年11月13日と14日の両日には、OAG・ドイツ東洋文化研究協会の創立150周年記念国際会議が開催されています。その後で、大胡さんは、シーボルトがオランダ商館長と共に参府するために、長崎から江戸へと旅したことを念頭に置いて、その街道をシーボルト街道とみなし、それを辿ることにしたのです。その企画の第1回目の12月11日のゼミナールでは、シーボルト学術財団学術顧問の大井剛さんが、草津宿と石部宿の中間にある梅の木村で、シーボルトが滞在したことについて、自分で撮影した梅の木村の薬屋の写真を示しながら、講演されました。その講演の後で、広重筆の東海道五十三次(保永堂版)の大津宿と草津宿のオリジナルな浮世絵を持っていると話しましたら、大胡さんから、次回のゼミナールでは、その絵を示しながら、30分程度、話してほしいとの要望をいただきました。その話がきっかけとなり、2024年1月22日、2月19日、3月18日の3回のゼミナールで、シーボルトの江戸への旅路を、浮世絵を示しながら辿ったのです。

3.連載への準備

 シーボルトは、文政9(1826)年2月15日に長崎を出発して、江戸に向かいましたが、この旅行中に日記を書いています。大井剛さんによると、彼の日記の訳本では、下記の訳本が一番良いということでした。
シーボルト著・齋藤信訳『シーボルト参府旅行中の日記』(思文閣出版、1983年)
 私が執筆する連載原稿では、この訳本で書かれていることを引用したいと考えました。そこで、細田編集長と相談したところ、彼は、思文閣出版に問い合わせて、引用の了承をとってくれました。引用を認めてくださったことについて、思文閣出版にはお礼申し上げます。

東海道五十三次の双六図
 シーボルトは、中山道ではなく、東海道を旅して、江戸に行きました。その旅程を示しているのが、第1図の浮世絵です。

第1図 東海道五十三駅道中記細見双六

 この図の絵は、一立斎広重が画いたもので、1847年に出版されています。広重は、天保5年(1834年)頃に保永堂から出版された「東海道五拾三次之内」で、風景画の名手の地位を獲得しました。その後、彼には、版元から次々に版下絵を画いてほしいという依頼が来るようになったのです。
 浮世絵は、芸術作品として鑑賞されたというよりも、日常的な品として、庶民の身近なところに存在していました。ですから、版元の要請により、風景画の第1人者になっても、広重は、図1のような双六図の版下絵も画いていたのです。
 浮世絵は、江戸で発売されたので、この双六の出発地は、右下で画かれている「日本橋」で、双六の上りは、中央に画かれている「京都御所」です。シーボルトは、この双六と逆の順番で旅をしたのです。次回以降では、シーボルトの日記に記述されていることをふまえて、彼の旅路をたどりますので、お楽しみにしていただければ幸いです。

筆者(横山 実)のプロフィール

1943年川崎市に生まれる。1978年から浮世絵の収集を始める。
1980年に川崎浮世絵協会の設立に参加する。
その時に、世界的に有名な浮世絵収集家である斎藤文夫さんと知り合う。
現在は、國學院大學名誉教授(元法学部教授)、国際浮世絵学会理事

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