
気仙沼市の南の表玄関とも言えるのが、道の駅・大谷(おおや)海岸。気仙沼市本吉町にあり、三陸縦貫道の「大谷海岸インターチェンジ(IC)」を降りて、わずか500m北に進むだけなので所要時間は3分と掛からない。しかも三陸縦貫道の石巻市以北は、東日本大震災の復興道路として整備されたため、無料区間となっており、事実上、三陸道に併設されている施設とも言える。乗り降り自由なので、寄り道しやすい。
ポールの先には「マンボウ」図柄の看板がある。道の駅・大谷海岸、その目の前に広がる大谷海水浴場は遠浅で、波穏やか。環境省が定めた、安全かつ快適に利用できる「快水浴場百選」に選ばれている。この「百選」には宮城県で4カ所が選定されているが、他の「小田の浜」「お伊勢浜」「小泉海岸」、いずれも気仙沼市にあり、リアス海岸に抱かれた、穏やかな入江が多い証左とも言える。
大谷海岸は定置網漁が昔から盛んで、時折、ユーモラスな巨体をゆらゆらさせているマンボウも捕獲された。その1匹が、震災前の旧・道の駅の水槽に展示されていた。気仙沼市と合併する前の本吉町のシンボルでもあり、「海のまち・気仙沼をゆったりと楽しんでほしい」という思いを込めて、震災で全壊した旧施設に代わり、現在地に建設された新・道の駅にも引き継がれた。
道の駅なので、当然、新鮮な魚介類をはじめとして、海の幸、山の幸がそろう。
本吉町地域には、「モ~ランド本吉」という牧場があり、そこで生産された牛乳やヨーグルトなどの乳製品もある。
フードコートでは、海鮮丼はもちろん、日本一の生産量を誇るフカヒレの姿煮を具にしたご当地ラーメンや「ふかひれ丼」、同じく日本一の漁獲量があるメカジキを肉の代わりに具にした気仙沼カレー、刺し身やミックスフライ定食などがある。子供連れにはうれしい「お子様プレート」も用意。家族連れでにぎわう。
カフェでは、サメの肉のフライのハンバーガー、気仙沼湾に浮かぶ大島特産のユズの風味を生かしたり、フカヒレの食感を楽しめるソフトクリームも人気だ。
前述したように、地元に牧場があるゆえ新鮮で濃厚な味わいでソフトクリームは特に人気商品だ。館内で食べてもいいが、天気がいい日には、屋外のテラス席、屋上の憩いの場から、大谷海水浴場から広がる太平洋を眺めながら、食べるのがお勧めだ。
トイレも広く、清潔で、ゆっくりと休憩できるし、観光案内も充実している。道の駅・大谷海岸を出て、三陸道には戻らず国道45号を5分ほど進めば気仙沼市の東日本大震災遺構・伝承館がある。また潮吹き岩や「龍の松」で知られる景勝地、岩井崎も隣接してある。
その後は「岩井崎IC」または「気仙沼中央IC」で再び三陸道に乗り、気仙沼湾横断橋を渡り「浦島大島IC」で降り、大島大橋で大島へ、または大島へは寄らず剣道を北上してから市内に入りルートが、海のまち、港まち・気仙沼を満喫できると思う。
道の駅・大谷海岸は嵩上げした高台にある。高さは海抜9・8m。国道45号とともに、その背後地を嵩上げした。このことにより、大谷地区は、道の駅・大谷海岸を含め、「海が見える景観」「海と生きる環境」と、遠浅の砂浜海岸を同時に残すことができた。当初案では、目の前に壁のような堤防が出現し、その内側からは海が全く見えなくなるところだった。国の津波対策で、高さは変えられないが、その代わり背後地を埋め立て、嵩上げするように地元住民と市が一致団結し、粘り強く国県と交渉し、得た成果なのだ。
道の駅・大谷海岸のテラスから海を眺め、潮風に吹かれながら飲むコーヒーのなんとおいしいことか。要求を貫いた側、理解した双方に感謝したい。
道の駅・大谷海岸では時折、表玄関や、マンボウの看板などを写真の納めている人やグループを見かける。
これは2022年公開のアニメ映画「すずめの戸締り」(新海誠監督)で、主人公らが震災時に住んでいた三陸地方を車で訪れる際に立ち寄った場所として描かれた。大災害で肉親を失ったことに伴う心の葛藤というものを感じる重要なシーンも含まれている。そのため、いわゆる聖地巡礼の一つとなっているのだ。「すずめの戸締り」自体が東日本大震災をテーマにしているだけに、感慨深いものがある。
これから夏本番。ぜひ遊びに立ち寄ってほしい。大谷海岸での海水浴、水遊び、散策にもぜひ。