連載– category –
-
連載
【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑧・鳴り砂の浜
気仙沼市には、2つの鳴り砂の浜辺がある。文字通り、歩くたびに「キュッ、キュッ」と小気味いい音が出る。 本当に音が出て、どんな音なのか?まずは短い動画を添付したので、それを確かめてから、以下の文章を読んでいただければ幸いだ。 底がなるべく平たく、革靴のように硬めで滑らかなほど音が出やすい。さらに、砂を踏むというより、すり足に近い方が、砂がよく鳴る。 撮影した日は、1年前のちょうど今頃。数日間、雨がなく、当日も乾燥注意報が出ていたほどで、砂が乾いた状態であればあるほど、機嫌... -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.3 ―長崎から下関への旅―横山 実
1.長崎からの旅立ち シーボルトは、長崎に到着してから2年半後の1826年2月に、参府旅行に加わって、長崎から江戸に向かうことになりました。参府旅行では、使節であるカピタン(オランダ商館長)ステュルレルに、長崎奉行所の役人、阿蘭陀通詞、料理人たちが同行しました。オランダ人の随員の定員は、医官と書記官の各1名でした。そこで、医官のシーボルトとともに、ビュルガーが「書記」として参府旅行に参加しました。地層学者であるビュルガーは、前年に、シーボルトの日本調査を手助けするために、オラン... -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路 No.2 ―来日と長崎での滞在―
横山 実1.シーボルトの来日 フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルトは、1796年2月17日に、貴族の家系の家で、現在のドイツ南部のバイエルン地方のヴュルツブルクで生まれています。ヴュルツブルク大学で、医学を学びましたが、そこでは、観察に基づく臨床医学が重視されていました。観察眼を養った彼は、恩師の影響を受けて、動物、植物、地理などにも関心を持つようになりました。 シーボルトは、国家試験に合格して医師の資格を取得した後に、東洋での研究を志しました。当時のドイツは、中央集... -
連載
【連載】シーボルトの江戸への旅路(1)―東海道五十三次の浮世絵で辿る― 横山 実
1.連載の経緯 社会的に無名な私が、きらめきぷらすに、上記のような表題で連載原稿を書くことになったかの経緯を書かせていただきます。 きらめきぷらすの読者は、編集者の吉野さんが企画した、渡部全助が執筆した音楽に関する連載記事を楽しまれたことと思います。その連載記事は好評でしたので、渡部全助著『ZENさんのぶらり音楽の旅』として出版されました。その出版記念のパーティが、2023年2月20日にZENさんの行きつけのバーで開かれましたので、私は妻と共に出席しました。 音楽関係者でない私が、この... -
連載
【連載】掌の物語⑦ 思い出搾取・樹 亜希
私は毎日、知り合いも友人もいないこの東京の雑踏の中で一人戦っていた。もちろん先輩や上司、メンターのみんなに支えられて仕事ができていることは承知している。無理にではないが、自然とヒリヒリする現場の中で、疎まれない程度にいい顔ができるようになっている。 どこへ行ってもお姉さんなんでしょ? 弟がいる感じ。とか、お姉さんがいる感じなどと、勝手に想像されるのだが、私は本物の一人娘である。母親が男の子の子育てをしたくないと強く念じて、私が女としてこの世に生を受けた。 それだけに、甘や... -
連載
【連載】掌の物語⑥ あの時の約束・樹 亜希
今から考えると、植村くんは私のことはあまり好きではなかったのではないかと感じる。どこへ行く、何を食べる、何を買う、それもこれもすべて私が提案しないと植村君は何も自分では、決めることなどできやしない。それが植村君だった。 私は一人っこで、兄妹はいない。 一方、植村君には弟と妹がいる。 彼の弟は東京大学現役合格、妹は彼の母親が溺愛して、わがまま三昧というパワーバランスの中で、いつしか、自分の主張が何も聞き入れられないことが当たり前になり、その表情にもあるように、いつも死んだ... -
連載
【連載】掌の物語⑤ 転生・樹 亜希
あなたは何回目? うわぁ、やっちまった。 思った時と、その後数秒のほんの瞬間に、走馬灯なんかなかった。とにかくこの状態からどうしたら逃れられるのかなんて知ったこっちゃない。 目が覚めると黄色い菜の花畑を上空から見ていた。 あ、私はバイクの単独事故で、小雨のなかを横断歩道でスリップして転倒したところまでは覚えていた。黄色い菜の花ににおいはなくて、どうして地上からではなくて、ドローンのような視点なのか、わからない。 隣から声がする。「気が早いね」「そうですか?」「お互いにさ... -
連載
【連載】掌の物語④ 霧の朝と明日の天気・樹 亜希
目が覚めたときに、寝室のカーテンを細く引くと外は雨で煙っていた。そのまま、鈍い頭の痛みにぼんやりとしていた。それでも時計のデジタル数字は確実に進んでいく。 ベッドから腰を上げてもう一度、外を見た。 あの映画と同じ光景が広がっていた。ミストというアメリカの映画だったと思うが、それを思い出して胸がざわざわした。この霧の向こうには行けないのではないだろうか。不条理劇の映画の再現ではないと信じたくて、窓の外を見るのはやめた。 二条城の壕に植えられた木々はおろか、その向こうの街並... -
連載
【連載】掌の物語③ ウサギのこと・樹 亜希
地下鉄二条城駅の近くにかわいいカフェがある。 私はそれを知らなかった。どうして今まで知らなかったのかは、色々と私的に面倒かつ、思い出したくない辛いこともあり、ここでは触れない。 堀川という川には水の流れはほぼない。 昔は水量はあったのだろうか、かなり深くて広い。車線一本ほどあり、昔から不思議だなと思っていた。なんのために? その静かな街並みには、会社やホテルが並んでいる。 自転車で行ける範囲でカフェがあるときいて、私は走り出した。 街並みに溶け込んだ、たたずまいに兎珈琲の... -
連載
【連載】掌の物語② 邂逅・樹 亜希
お正月3日のお話ですが、編集部の都合で掲載が遅れました。 今日はあなたの誕生日、忘れようもないお正月の3日なんて。 卑怯だと思う、今もなお私の脳裏と心に刻んでいるんだから、あなたは私の誕生日など忘れてしまっているでしょ。 いつもより人の少ない道路の端を自転車で走りながら思う。 忘れたいのに、忘れられない記憶をフラッシュバルブ記憶という。 昨年からメンタル心理カウンセラーの資格取得講座の学習を始めて知った。大学時代には心理学を一年だけ勉強したが、バイトが忙しくてなかなか精読...