【連載】ギッチョムの気仙沼だより② はじき猿・風車

運を呼ぶ「風車」(かざぐるま)

 宮城県では、正月飾りを燃やして、正月以降の日々の安寧と、農漁業や商売などそれぞれの生業の弥栄(いやさか)を願う小正月行事「どんと祭」が、各地の神社で行われる。宮城県以外では「左義長」(さぎっちょう)や「ドント焼」という呼称で行われる所も多い。
 その「どんと祭」。気仙沼市では唐桑半島先端に位置する「御崎神社」が有名だ。300年の歴史があり、毎年多くの人が訪れる。今年も1月13日に「宵祭り」があった。私たち夫婦も毎年、訪れている。
 唐桑町地区は、沿岸漁業はもちろん、ハワイ沖までを漁場とする近海漁業、カキを中心とした養殖業が盛んな漁師町。戦後、まさしく世界を股にかけた遠洋漁業の基地として栄えた気仙沼市。唐桑町地区は、多くの優秀な船員を輩出し、その稼ぎを注ぎ込んだ自宅は「唐桑御殿」と称される豪壮な日本家屋で、今もその勇姿を見ることができる。
 漁師にとって、豊漁満足は一番の願い。正月明け、一年の豊漁を願う御崎神社のどんと祭は「おさきさん」の愛称とともに広く定着している。
 そして、その人気を支える一つが、大漁を願う「早波(さっぱ)舟」、運を呼ぶ「風車」(かざぐるま)・災いを取り除く「はじき猿」の縁起物だ。
 「はじき猿」は、布で作られた小さな猿を竹ひごに抱きつかせ、竹製のバネでぴょんと弾く素朴な玩具。宝を背負っ人形が、竹ひごを上下する様子が可愛らしい。「はじき猿」という名前は、災難や悪事を「弾き去る」という願いを込めている。
 そして五色の風車。「運がクルクル(来る来る)風車」。息を吹き掛けると、クルクルと回る。子供達が、唇を尖らせて風車を回す姿は、いつの時代も愛らしい光景だ。
 この縁起物には、御崎神社の主神・天照大神を表す日の丸と、太陽が力強く昇る旭日旗が飾られ、日本の未来を照らし出す。
 わらで作った中心部には「家内安全」や「商売繁盛」などの願いを書き込んだ飾り物。全てが色鮮やかで、神棚をパッと明るくする。
 毎年、買って帰るが、長女が嫁いでからは、嫁ぎ先の分も含め二つを購入した。娘に渡す方には、旦那さんが会社を経営しており、大きめの「商売繁盛」を飾り付けてもらった。
 販売しているのは神社ではなく、近隣の住民。露店で、「今年もいい年になりますように」などと会話を交わしながら購入する。その気取りのない庶民的なところが、いかにも漁師町らしい。気さくで明るい雰囲気が楽しい。同神社の「どんと祭」の名物となり、露店販売は、250年を超す歴史がある。
 弾き猿は江戸中期に登場した玩具だ。全国各地にあったが、今では東京都葛飾区柴又の帝釈天で、やはり縁起物として売られているなど、全国で数か所だけ残るという。
 今年は元日から「能登半島地震」が発生した。東日本大震災を経験した身として、「災害を弾き去り、1日も早い復旧・復興を」と願いを込めて、手を合わせる。

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