【連載】ギッチョムの気仙沼だより④・金華山とアヴァロン

 地図で宮城県を見ると、仙台から東の方向に松島があり、さらに太平洋に突き出した牡鹿半島を抱える石巻市がある。その半島の東端にある島が「金華山」だ。
 島全体が黄金山神社の神域で、恐山、出羽三山と並ぶ「奥州三霊場」に挙げられる。神職のみが居住する島だが、多くの参拝客が訪れるほか、「神の使い」のシカが多く生息しており、例年秋には伝統行事「鹿の角切り」が催され、観光客で賑わう。
 石巻市の島だが、牡鹿半島の山並みに隠れ、市内からその姿を眺める場所は少ない。松尾芭蕉が「奥の細道」で「石の巻といふ湊に出。『こがね花咲』とよみて奉たる金花山、海上に見わたし…」と記しているが、石巻市街地から金華山は見えず、石巻湾沖合にある田代島か網地(あじ)島を見て、勘違いしたものと解されている。石巻市では、牡鹿半島の突端にある御番所公園など半島の東部や、2005年に合併した旧雄勝町の一部から遠望できる。
 逆に気仙沼市内からは大島や唐桑半島、大谷海岸、岩井崎など多くの場所からその美しい島を肉眼で見ることが可能だ。気仙沼地方が金華山より東側に位置し、その間には海しかないからという単純な理由だ。直線距離で60〜70km。天気のいい日にはくっきりと水平線に浮かぶ。また朝夕、陽の光を受け輝く山影は特に美しい。
 世界三大漁場の目印のなる島であり、沖合で船を操る船乗りにとっては、陸地の方向と距離を知る貴重な島でもある。

 中国には古来、食すと不老不死を得るとされる果物の実がある「蓬莱(ほうらい)」山伝説がある。場所は今の北京の遥か東方にあるとされ、秦の始皇帝は不死の命を求めて、仕えていた徐福に命じ、蓬莱山発見の旅に出させたーとの記録が残る。しかし神山は見つけることはできず、徐福たちは日本にたどり着き、そのまま九州に残ったという伝説が語り継がれる。蓬莱山と金華山は何の関係もないが、世界各地に同じような「楽園」「理想郷」と重ね合わせた伝説、はたまた夢見た島が存在する。離島にどこかロマンを感じるのかもしれない。
 写真のうち「1」は、気仙沼市の第3セクター「気仙沼ケーブルネットワーク」が市内3箇所に設けている定点観測用のカメラのうち唐桑半島の早馬山にある公園近くのカメラが映し出した夕景の金華山。番組の間に、定点カメラ3台の映像が繰り返し放送される。音楽も流れるが、テレビの音を消して、自分のお気に入りの音楽を聴きながら、コーヒー片手に本を読んだり、パソコンをいじったりしながら、その合間に時折、画面を眺めるのが個人的には好きな時間でもある。

 こちらの写真は、アルバム「ミュージック・フォー・エアポート」などが代表作だが、簡単なフレーズを繰り返すミニマム音楽、その後「アンビエント」という名前で括られるヒーリング効果を生み出す静謐な音楽の先駆者で、未だ第一人者のブライアン・イーノが、プログレッシブ・ロックの代表バンドであり、こちらも未だ第一線で活躍するキング・クリムゾンのリーダー、ロバート・フリップが共作したアンビエント作品の白眉「イブニング・スター」(1975年)のジャケット。タイトルソングもそうだが、「ウインド・オン・ウインド」など、例えるのが難しいが、「聴く」という積極姿勢より「聞く」という、何気なく耳に入る音、まるで空気のような存在としての音。
 退屈に思う人も少なくないだろうが、私は文章を執筆する時にも、小さめの音量で流している。「気づいても、気づかなくてもいい音楽」とイーノ自身もそう定義しており、まさに環境音楽たる所以だ。
 実際にこの目で遠望できる金華山だが、定点カメラが映し出した夕景を見て、真っ先に頭に浮かんだのが、「イブニング・スター」のジャケットだった。架空の島をモチーフにしたものか、はたまた彼ら英国人にとって理想郷とされる「アヴァロン」、アーサー王伝説が残り、人々に恵みを施すリンゴが自生する楽園とされた島をイメージしたものか…。絵を描いたのはドイツ人でラウンドスケープ画で知られるペーター・シュミット。作風を見ていてもカラフルな山水画的なイメージがある。果たして「蓬莱」や「アヴァロン」的な島をモチーフにしたのかは、私の調査では分かっていない。
 この伝説のアルバムは何と今年2024年3月に再発される。私は今回と同じ2008年のリマスターCDを持っているので、パスだが、癒やしの音をご所望の方にはそこはかとなくお勧めしたい。

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