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【連載】掌の物語⑤ 転生・樹 亜希
あなたは何回目? うわぁ、やっちまった。 思った時と、その後数秒のほんの瞬間に、走馬灯なんかなかった。とにかくこの状態からどうしたら逃れられるのかなんて知ったこっちゃない。 目が覚めると黄色い菜の花畑を上空から見ていた。 あ、私はバイクの単独事故で、小雨のなかを横断歩道でスリップして転倒したところまでは覚えていた。黄色い菜の花ににおいはなくて、どうして地上からではなくて、ドローンのような視点なのか、わからない。 隣から声がする。「気が早いね」「そうですか?」「お互いにさ... -
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【連載】掌の物語④ 霧の朝と明日の天気・樹 亜希
目が覚めたときに、寝室のカーテンを細く引くと外は雨で煙っていた。そのまま、鈍い頭の痛みにぼんやりとしていた。それでも時計のデジタル数字は確実に進んでいく。 ベッドから腰を上げてもう一度、外を見た。 あの映画と同じ光景が広がっていた。ミストというアメリカの映画だったと思うが、それを思い出して胸がざわざわした。この霧の向こうには行けないのではないだろうか。不条理劇の映画の再現ではないと信じたくて、窓の外を見るのはやめた。 二条城の壕に植えられた木々はおろか、その向こうの街並... -
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【連載】掌の物語③ ウサギのこと・樹 亜希
地下鉄二条城駅の近くにかわいいカフェがある。 私はそれを知らなかった。どうして今まで知らなかったのかは、色々と私的に面倒かつ、思い出したくない辛いこともあり、ここでは触れない。 堀川という川には水の流れはほぼない。 昔は水量はあったのだろうか、かなり深くて広い。車線一本ほどあり、昔から不思議だなと思っていた。なんのために? その静かな街並みには、会社やホテルが並んでいる。 自転車で行ける範囲でカフェがあるときいて、私は走り出した。 街並みに溶け込んだ、たたずまいに兎珈琲の... -
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【連載】掌の物語② 邂逅・樹 亜希
お正月3日のお話ですが、編集部の都合で掲載が遅れました。 今日はあなたの誕生日、忘れようもないお正月の3日なんて。 卑怯だと思う、今もなお私の脳裏と心に刻んでいるんだから、あなたは私の誕生日など忘れてしまっているでしょ。 いつもより人の少ない道路の端を自転車で走りながら思う。 忘れたいのに、忘れられない記憶をフラッシュバルブ記憶という。 昨年からメンタル心理カウンセラーの資格取得講座の学習を始めて知った。大学時代には心理学を一年だけ勉強したが、バイトが忙しくてなかなか精読... -
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【連載】掌の物語① 白い祝福・樹 亜希
白い祝福 昨夜から冷え込むと思ったら、目覚めると窓の外は雪景色だった。 暖冬と叫ばれていた昨年末から、今年の年越しは本当に暖かかった。過ごしやすく、のんびりとしていると、長い横揺れに襲われた。地震、それもかなり大きな。 成人式が一月十五日ではなくなってから、何年が経過したのだろうか。 私は母親が虚栄心を満たすために、知り合いの呉服屋で買った、振り袖を否応もなく十八歳から着ていた。今では考えられないようなばかばかしい話だが本当なので、仕方がない。同じ大金をだすのならば何回も... -
プロフィール
樹 亜希 プロフィール
小説家出版第二弾となる「哀傷」(文芸社)が2023年6月発売前作から3年、遂に書籍となる本作品を是非とも皆様に読んで頂きたく、細腕をさらに削り完成させました。既刊「双頭の鷲は鳴いたか」(幻冬舎刊 電子書籍)も宜しくお願いいたします。JADP認定メンタル心理カウンセラー 著作(表紙写真、解説はAmazonを援用しています) ¥1,100税抜単行本(ソフトカバー) – 2023/6/1【どうして真剣に男を愛することができないのだろう。欲しいと思う気持ちがあっても、慣れてしまうと飽きてしまう】(本文より)。社会に...
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