【連載】ギッチョムの気仙沼だより⑤・港まち・気仙沼

 港町・気仙沼を代表する光景の一つに挙げるのが、岸壁を埋め尽くす漁船だ。
 船の着岸といえば、岸壁に横着けするのを頭に思い浮かべると思う。気仙沼港でもイカ釣りや定置網など小型〜中型船は横着けしている。
 ただ、こう言うと「あれ?漁船って、縦着けじゃないの?」と異論も聞こえてきそうだ。確かに、沿岸漁を主とする、いわば「浜」の岸壁には、船外機付き小船をはじめ、縦着けが多い場合もある。理由は簡単で、縦着けの方が、場所を取らないからだ。
 しかし気仙沼魚市場の桟橋や内湾の一部などでは、水揚げ態勢のまま横着けしている船も多い。水揚げラッシュ時などは、水揚げのために場所を空ける必要があるが、そうでない場合などは、翌日の出漁まで、そのままという場合もある。ケース・バイ・ケースだ。
 気仙沼港は国内屈指のマグロ船の基地だ。近海船は地元、気仙沼港に水揚げする船も多いが、遠洋船のほとんどは静岡県焼津港などに水揚げする。近海船はマグロ類も獲るが、メカジキやサメ類などを主力にしている船も多く、冷凍せずに気仙沼港に運ぶ場合が多い。
 しかし遠洋マグロ船は、名前の通り、クロマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロなど、マグロ類が主力となる。しかも操業は海外の拠点港を活用しながら約1年に及ぶ。当然、漁獲したマグロは鮮度を保つため急速冷凍する。その温度はマイナス60度という超低温だ。
 水揚げは気仙沼ではほとんどない。静岡県焼津港が最も多い。理由は鮮度保持、コスト面などから、母港である気仙沼に水揚げするより、最大消費地の首都圏に近い港を選ぶのがベターだからにほかならない。
 なので母港である気仙沼に帰ってくる時は、次の出漁に向け、点検や修理、物資の補給、そして漁船員にとっては、まさに短いながらも家族と過ごす貴重な時間となる。もちろん、休みとはいえ、次の出漁に向けたメンテナンス、仕込みもある。
 その「母港・帰還」の時の姿が、写真のように、船尾を岸壁に向けて「縦着け」だ。379〜492トン大型船ゆえ、場所を多く取る。そのため船首を海側に向けて、居並ぶ光景となり、それが他のあまたの漁港とは違う、まさに「船団」ともいうべき壮観さがある。
 場所を取るための「縦着け」が、浜の沿岸小型船と同じ理由というのも面白い。
 遠洋マグロ船は正式には、その漁法から遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁船と呼び、気仙沼港には現在、33隻が所属している。帰港中の船が延長約400mの「出漁準備岸壁」にきれいに並んでいる。
 気仙沼港には、大型船用にもう一つ、内湾の北側の通称「コの字型」岸壁もある。漁港には、いわゆる「浜」として全国津々浦々にあるものなど1〜3種のランクがある。3種は114港あり「利用範囲が全国的」という基準がある。
 さらに全国13港は「産業の振興上特に重要な漁港で政令で定めるもの」とされる「特定3種」港だ。八戸、銚子、焼津、境港、長崎などだが、宮城には石巻、塩釜、そして気仙沼の3港がある。まさに「世界3大漁場」に面していることを裏付けている。
 気仙沼港は水揚げ港としても、数量、金額ともトップ10前後を常に維持するが、前述したように「母港」としての機能も大きい。
 慶長16年(1611年)、伊達政宗公の命を受け、港の探索に訪れたスペイン(当時イスパニア)のセバスチャン・ビスカイノ。その報告書の中で気仙沼港を、「見た中で最良の港」と賞賛している。大島を天然の防波堤とし、湾が奥深い気仙沼港は、今も昔も湖のように波穏やかな良港だ。台風時に船が、魚市場などにも3、4隻づつ、餃子を皿に盛り付けるように横着けで「おしくらまんじゅう」しているように停泊している光景も、気仙沼港ならではである。
 遠洋&近海マグロ、カツオ一本釣り、巻き網、サンマ棒受け網、イカ釣り、定置網などなど船は、その漁獲する魚、漁法ごとに船の装備、形が違う。その機能的美しさを愛でるのも楽しい。
 その違い、またいずれ紹介したい。

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