映画、ドラマになった気仙沼

 気仙沼を舞台にした主な映画、テレビドラマなどを紹介したい。まず作品名をピックアップすると、NHK朝ドラ「おかえりモネ」、菅田将暉さん主演「サンセット・サンライズ」、そして新海誠監督作品「すずめの戸締まり」。渡辺謙さんがナレーションを務めたドキュメンタリー映画「ただいま、つなかん」などがある。これらは東日本大震災後に制作されたものだ。
 震災前だと、コミックを原作として阿部寛・中谷美紀主演の「自虐の詩」、さらには1958年に上映された「港で生まれた男」などがある。
 それぞれが港町・気仙沼にとって重要であったり、または震災前の街の景観、戦後復興期の気仙沼の活気などを感じさせるもので、それぞれが意義深いものを感じる。

 上映、放送が新しいものから順に、作品の概要と、「気仙沼らしさ」について触れる。
 まずは2025年1月に公開された「サンセット・サンライズ」だ。これはほぼ100%気仙沼でロケが行われた。時代は新型コロナ騒動の最中、菅田将暉さんが務める主人公が、リモートワークを利用し、宮城県の港町「宇田濱町」にお試し移住。大好きな釣りを満喫しながら、過ごそうとするが、コロナ禍の最中、当初は隠密で行動。しかし田舎のネットワークは、すぐに正体に気づき、そこからクセの強い港まちの住民、ヒロインを演じた井上真央さんへの恋心、震災がもたらした悲しい過去などを絡め、ドタバタしながらもペーソスを交えたハートフルな作品となっている。岸善幸監督、脚本は同じ宮城が生んだクドカンこと宮藤官九郎が担当。笑いと涙が織りなす佳品だ。
 ロケ地は気仙沼市の東海岸部分に位置する唐桑町地区。そのほかには大島も登場する。クセが強い住人には、竹原ピストル、三宅健、池脇千鶴、中村雅俊など個性豊かな俳優が固める。クドカンの脚本は、「ザ・港まち」の唐桑町地区、世界産三大漁場を目の前に紀伊(現・三重、和歌山)、土佐(現・高知県)などからカツオ船も操業に集結。「陸の孤島」とされる気仙沼だが、「海のハイウェー」である黒潮を利用して、さまざまな中央文化や優れた技術を受け入れ、さらには人的にも交流。その開けっぴろげで、「来るものは拒まず、去るものは追わず」という竹を割ったような性格は、映画で描かれたまんま。震災、コロナ禍がもたらした「負の部分」を織り交ぜながら、田舎、海の魅力、人情を伝えてくれる。気仙沼市のきれいな景観を見ていただけるだけでも地元民としてはうれしい。

 次は「おかえりモネ」。2021年度前期のNHK朝ドラ作品。気仙沼はメインロケ地で、ヒロインの永浦百音を演じる清原果耶さんが気象予報士を目指し、さまざまな経験をつけながら成長。気象予報士としても活躍。そして気仙沼のコミュニティーラジオで地元とともに生きていく姿を描く。テーマはズバリ東日本大震災だ。出演者の多くが抱えているのが、いわゆる「サバイバーズ・ギルト」と「喪失感」。ネタバレになるので、多くは語らないが、ヒロインは生まれ育った気仙沼湾に浮かぶ離島で育つ。音楽の勉強をするための高校受験で、仙台市を訪れていた際に震災が発生。津波と火災で甚大な被害を受けたふるさとの様子をテレビ映像で知る。数日後、戻った島の惨状の中、手を携えて応急復旧の手伝いをする同級生の姿を見て、「私は何も見ていないし、何もしていない」という疎外感に苛まれる。またモネの親友の一人(永瀬廉)の父(浅野忠信)は、津波で妻が行方不明に。死亡認定を頑なに拒み、酒浸りに。腕のいい漁師は自暴自棄の毎日を送る。
 気象予報士を目指すヒロインを応援し、運命の糸に導かれる医師役には坂口健太郎。
 物語の底に流れるのは、海という自然とともに生きる港まちの住民たちのしたたかさと、絶望の中でも前を向く陽気な団結力だ。ヒロインの祖父、カキ漁師を演じたのは藤竜也さん。
 主な出演者は、ヒロインの妹に蒔田彩珠、父母は内野聖陽と鈴木京香、祖母は竹下景子。気象予報士の先輩に今田美桜、上司に西島秀俊などなど錚々たる俳優が名を連ねる。
 放送当時、大学時代の友人から「なんかワクワク感がないよなあ」と言われた。コメディータッチの演出もあったが、震災を真正面から受け止めた作品であり、私たち気仙沼人は「まんま、まさに、そのまんま。当時の気仙沼の空気感、漂う喪失感と、自らを鼓舞して一歩ずつ前へ進む、その思い。架空のドラマだけど、これでいい」と、受け止めていた。

 2作品で多くの紙幅を割いてしまった。以下は簡略に。「すずめの戸締まり」は2022年に公開された新海誠監督のアニメ映画。九州の静かな港町で、叔母と暮らす17歳の少女「岩戸鈴芽」は、高校への登校中、長髪の青年「宗像草太」とすれ違う。青年は、大地震などの災い
が噴き出す扉に鍵をかける「閉じ師」という古来からの役割を担っていた。しかしとてつもない大災害を予兆させる想定外の事態が生じる中、壊れた小さな椅子へと封じ込まれてしまう。鈴芽は、彼を助ける形で九州から北上。生まれ故郷の岩手県沿岸のまちへ。そこは津波で大きな被害を受け、母を失った場所でもあった…。
 気仙沼は、道の駅・大谷海岸で。合流した叔母と鈴芽、草太の親友などと食事休憩。そこで出てきた海鮮ラーメン、ソフトクリーム、気仙沼のソウルフードの一つ「クリームサンド」パン。施設内の様子が描かれる。そして叔母の中に突如湧き上がる、ドス黒い悪夢のような感情。このシーンはかなり重要で、災害がもたらすさまざまな負の要素を、当事者ひとり一人が、心にある「扉」で閉じ込めている。それを暗喩するシーンだった。
 新海監督は、気仙沼でも舞台挨拶をし、「東日本大震災を自分なりに消化して、やっと描くことができた作品」と語った。
 道の駅・大谷海岸では時折、その外観を撮影したり、自撮りする人が後をたたない。「聖地」とするにはささやかだが、アニメとしては比較的珍しいロード・ムービーを取り入れた作品であり、気仙沼人も大切にしたい「聖地」だろう。
 「ただいま、つなかん」は2023年、風間研一監督作品。東日本大震災の津波で被災しながら、ボランティア活動の拠点としてさまざまなサポートを行なった気仙沼市唐桑町の民宿「つなかん」を描いたドキュメント。震災後、一貫して気仙沼に携わる俳優・渡辺謙さんがナレーションを務める。23年度浦安ドキュメンタリー大賞で2位を獲得。決して大作ではないが、ここにも受け入れる気仙沼人と、訪れたり、移り住んだりした客人(まれびと)との悲喜交々、温かく優しい交流の輪がある。

 震災前、印象的だったのが気仙沼と縁の深い堤幸彦監督作品の映画「自虐の詩(うた)」。
業田良家原作の同名4コマ漫画を実写化した。
 阿部寛さん演じる大酒飲み&ギャンブル好きのダメダメ男。そのトレードマークは気に入らないと行う「ちゃぶ台返し」。
 その妻を演じたのが中谷美紀さん。その中谷さんの生まれ故郷が気仙沼という設定。中学時代、友人と語り合うシーンや、これまたダメダメ人間の父親(西田敏行)の情けない過去を描くシーンでは今では、津波で跡形も無くなった気仙沼の海辺に近い中心街、昭和の匂いをぷんぷんさせる老舗の新聞販売店、路地裏などが映画の中に残る。物語の進行と、気仙沼の街並みの関連性はさほどないが、田舎の港まちという風情が、ダメダメ男を支える妻の心情に映り込んでいる気がする。
 いずれにしても気仙沼人にとっては震災で失われた懐かしい「場所」がある。それが胸に迫る。
 「港で生まれた男」は1958年上映。私事で恐縮だが、筆者の生まれた年。全国的に言えば東京タワーが完成・オープンした年である。
 主人公はサンマ運搬トラックの運転手など、古き良き気仙沼の匂いが漂う。個人的には今まで、お目にかかったことはない。今となっては、多くの市民がそうだと思う。そこで市、観光団体に提案したい。映画会社と交渉し、ぜひ、気仙沼で上映する機会を設けてほしい。できれば、往年の気仙沼の様子を「自虐の詩」と同様、真空パックされている。ぜひ、震災後に上映、放送された作品、それ以外のエポックな映像作品(NHKの「ドキュメント72時間」で取り上げてもらった「宮城 気仙沼 漁師たちのコンビニ」と「春はめぐって 気仙沼・酒屋の物語」などなど)を集め、展示、閲覧する場を設けて欲しいと提言したい。著作権があることなので、簡単ではないだろうが、一部スチール写真でもいいので、検討を。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次